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総資産で全国2位の信金。元本割れリスクのある投信は一切販売せず、手数料収入や有価証券運用には頼らない。“持ち出し”でスタートアップ育成や中小企業のビジネスマッチングに力を入れ、融資先を育成する。支えとなっているのは、歴代経営者の理念に基づく徹底した「顧客ファースト」だ。

❶顧客の幅広い相談に応じる本店の「城南なんでも相談プラザ」❷城南信金本店(東京・品川)❸蓮沼支店に併設する創業支援施設「Jクリエイトプラス」❹Jクリエイトプラスでは城南信金の職員が相談相手となる

 「今よりも低価格帯のプランも作って、これからサービスの幅を広げようと考えているんです」

 2018年8月にウェブ制作会社を立ち上げたアウトカム(東京・大田)の田端翔太社長が打ち明けると、城南信用金庫企業経営サポート部の林康明さんはメモを取り「手伝えることがあれば何でも言ってください」と応じた。

 スタートアップ企業の社長と取引金融機関の担当者とのよくあるやり取りだが、ちょっと変わっているのは話をしている場所だ。エメラルドグリーンの壁に包まれたカフェのようなこのスペースは、城南信金が運営する創業支援施設「Jクリエイトプラス」の一室。蓮沼支店(東京・大田)の一角にある。

 スタートアップ企業を集めたシェアオフィスは各地で生まれているが、ここは同信金が24時間利用できる支店併設型の創業支援施設として開設したもの。支店にこうした施設を置くのは、国内の金融機関で初めてだという。事業計画書の審査が通れば入居でき、家賃は共益費込みで月額2万円。9室ある部屋はすでに満室だ。

 破格の家賃もさることながら、「支店が隣接していて経営上の悩みがあればすぐに担当者に相談に行くこともできる。ここまで親切な金融機関は他にありません」と田端社長は満足げだ。

 城南信金が創業支援に力を入れるのは、営業エリアにある大田区の中小企業製造業の数が激減しているという現実があるため。約9000社あった1983年のピーク時に比べると、今や3分の1になった。創業者の支援や地域の発展、雇用創出は、地元金融機関である信金に求められる役割だが、城南信金が支店に創業支援施設をつくるなどして力を入れるのは、「顧客ファースト」が自らの経営に返ってくるというDNAが埋め込まれているからだ。

「貸すも親切、貸さぬも親切」

 鹿児島県知事などを務めた加納久宜氏が1902年、前身となる入新井信用組合を創設したのが城南信金の始まり。「一にも公益事業、二にも公益事業、ただ公益事業に尽くせ」。加納氏はこうした言葉を残し、今日の基礎を築いた。その後、3代目理事長の小原鉄五郎氏の時代に、公益事業者の立場として、顧客のために「貸すも親切、貸さぬも親切」という融資の原則を示した。

創業から100年以上の歴史を持つ
●城南信金の創業から現在までの主な出来事
(写真=上:鹿児島県歴史資料センター黎明館所蔵)
日経ビジネス2019年12月2日号 60~63ページより目次