「ジムビーム」を持つ米ビームの買収で、スピリッツ(蒸留酒)世界10位から3位へと飛躍したサントリーホールディングス(HD)。だが、「米国の魂」ともいわれるバーボンを手掛ける老舗メーカーはプライドの固まりだった。5年の曲折を経て統合は実を結び始めている。名実ともにビームを傘下に収めた3つの改革に迫る。

「東西のウイスキー造りのノウハウを融合した。全く新しいウイスキーだ」。今年3月7日、米ニューヨーク。サントリーHDの新浪剛史社長は日米合作のウイスキー「リージェント」の米国での発売を発表した。性格は明るいが、顔つきは厳しいといわれる新浪氏。この日、ずっと頬が緩んでいたのには理由がある。

リージェントはサントリーHDが2014年5月に買収した米蒸留酒大手、ビーム(現ビームサントリー)との共同開発品だ。それまでもジンやウオッカの開発で協力してきたが、ウイスキーは原酒をたるで十分に熟成する必要があり、日米で製法が異なる。技術の融合が難しいとされた分野で合作品を仕上げたことは、難路が続いたビームとの統合作業にめどをつけた象徴と社内外で受け止められた。その安堵感からこぼれた笑みだった。
ビーム買収に投じた資金は実に160億ドル(当時のレートで約1兆6500億円)。世界で最も売れているバーボンウイスキー「ジムビーム」のほか「メーカーズマーク」「ラフロイグ」などのブランドを手に入れ、社名をビームサントリーに改めた。蒸留酒事業で世界10位だったサントリーHDは、「ジョニーウォーカー」を手掛ける世界最大手の英ディアジオ、「シーバスリーガル」を持つ2位の仏ペルノ・リカールに次ぐ、3位に浮上した。
買収資金はメインバンクからの借り入れで賄った。長く実質無借金の経営を続けてきたサントリーHDの純有利子負債は最大で1兆6000億円に達してしまう。そこまでしての買収なのに、新浪氏はビーム側の態度に違和感を覚えた。社長に就任したのは買収から半年後の14年秋。すぐに渡米したが手応えがない。新浪氏の目には問題点ばかりが映った。
営業は家庭用販売を伸ばせる卸を重視して、飲食店に足を運ばない。生産現場には活気がない。何より、老舗の看板にあぐらをかいて、チャレンジしない──。米国の魂といわれるバーボンを手掛けているというプライドは高い。だが、人事さえもビーム側が決めており、「サントリーはビームのガバナンスを放棄しているに等しい」と新浪氏は感じた。経営の実態を把握すると、矢継ぎ早に3つの改革を始めた。
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