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世界のパソコン市場のトップ3は中国のレノボ・グループに米ヒューレット・パッカードと米デル。日本勢は価格競争の波にのまれ、今や世界での存在感はほとんどない。そんなパソコン市場で気を吐くのがパナソニック。規模は小さいながらもしっかり稼ぐ。秘訣はどこにあるのか。

モバイルパソコン「レッツノート」を生産するパナソニックの神戸工場。年間約2000人の顧客を見学に受け入れる。全9カ所の工程を回り、見るだけでなく「体感」できる(写真=菅野 勝男)

 神戸市西区にあるパナソニックの神戸工場。モバイルパソコン「レッツノート」を生産するこの工場を初めて訪れる顧客はおそらく面食らうはずだ。

 工場棟の玄関先で社旗を振って出迎えるのは約20人もの従業員。玄関に入れば、「いらっしゃいませ、〇〇様」と書かれたウエルカムボードが目に飛び込んでくる。そして、担当者に促されるまま、新製品やイメージキャラクターの女優の等身大パネルとともに記念撮影だ。

 “歓迎セレモニー”が終わると、次は工場見学。通常は半日コースで、まずはショールームで歴代のパナ製パソコンを見て、同社のパソコン事業の歴史を知る。そこから産業用ロボットによる検査工程や、屋台のような複数の作業台を使いこなして多品種少量生産する「セル生産」のラインを見学。さらに最終的に製品を梱包する工程まで全9カ所を巡る。各工程には担当の従業員が張り付き、効率を上げるための工夫や品質向上の取り組みなどを熱心に説明してくれる。

 パナソニックが工場で顧客を手厚くもてなすのは、販売先を法人向けに特化しているからだ。主力ブランドのレッツノートは持ち運びやすい重さながら、落としても壊れにくい丈夫さが特徴。外出の多い製薬会社のMR(医薬情報担当者)や保険外交員など、企業の営業現場の支持は厚い。

企業向けに特化するレッツノート
●13インチ未満の国内モバイルパソコンでシェア1位
出所:IDCジャパン

 ただ、パナソニックの営業担当者が顧客先で直接、向き合うのはIT(情報技術)部門の担当者だ。1回の契約で数百台から数千台の発注となるだけに、彼らの責任は重い。1台あたり20万円としても、1000台なら2億円。「生産現場を見て、納得してもらったうえで、(購入を)決めてほしい」。パソコン事業を担当するモバイルソリューションズ事業部の向坂紀彦・東アジア営業統括部長は力を込める。

パソコン出荷は増加傾向が続く
●レッツノートとタフブックの出荷台数

 こうした細かな配慮が、パナソニックのパソコン事業を支える。画面サイズが13インチ未満の国内のモバイルパソコン市場ではトップシェアを誇る。調査会社IDCジャパンによると、国内のモバイルパソコン需要は2018年度に15年度比で約15%増えたが、レッツノートの出荷台数はこれを大きく上回る40%超の伸び率を記録。19年度はレッツノートよりも丈夫な工事現場監督者や警察向けのモバイルパソコン「タフブック」も合わせると出荷台数は100万台を超える見通しだ。

日経ビジネス2019年11月18日号 64~68ページより目次