「あおり運転」が社会問題化し需要が急増しているドライブレコーダーで国内首位を争う。カーナビ市場が縮小する中、統合したビクターとケンウッドの技術を融合し新市場を切り開いた。ライドシェア向けなどで結実したソリューションビジネスを全社に広げようとしている。

<span class="fontBold">インドネシアを走るグラブのドライバー。車内に設置されたドライブレコーダーは、車内外の映像を記録するだけでなく、緊急時にはコールセンターと通信する役割も果たす</span>
インドネシアを走るグラブのドライバー。車内に設置されたドライブレコーダーは、車内外の映像を記録するだけでなく、緊急時にはコールセンターと通信する役割も果たす

 インドネシアの首都ジャカルタの路上に止まった、配車サービス大手グラブの車両。居眠り中のドライバーの真横で、大胆にも助手席の窓から半身乗り込み盗みを働く男の姿が──。犯行の一部始終が収められていたのは、防犯カメラではなくドライブレコーダー、いわゆる「ドラレコ」だ。

 グラブがライドシェア専用のドラレコを導入したのは今年4月。提携相手に選んだのがJVCケンウッドだ。車内外の映像を記録できるだけでなく、通信機能を備えた通報用のボタンも搭載。緊急時に押すと、映像や位置情報がコールセンターに送信され、すぐさまサポートを受けることができる。

 ライドシェアサービスは世界で一気に広がったが、中国で滴滴出行を利用した女性が運転手に殺害される事件が起きるなど、安全確保が課題となっている。不特定多数の乗客を乗せるドライバーの側にもリスクがある。その対策として導入されたのがJVCケンウッドのドラレコだ。

「あおり運転」対策で需要急増

 日本ではここ数年、「あおり運転」やそれを原因とする事故が社会問題となっている。ドラレコはもともとタクシーなど業務用から普及が進んだが、最近では自己防衛のためにドラレコを設置する自家用車が増加している。

急成長するドライブレコーダー市場
●ドライブレコーダーの国内アフターマーケット販売台数
急成長するドライブレコーダー市場<br><span>●ドライブレコーダーの国内アフターマーケット販売台数</span>
出典:販売実績を基に推計した国内市場規模データ/GfKジャパン調べ
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 GfKジャパンの調査によると、2018年の一般消費者向けのドラレコの販売台数は約139万台。3年で2倍以上だ。1万円前後の海外製も出回る中、2万~3万円台の高価格帯が主力のJVCケンウッドはコムテック(愛知県東郷町)やユピテル(東京・港)などと首位争いを繰り広げており、「業務用も含めれば国内首位」(JVCケンウッド)という。

 JVCケンウッドのドラレコ事業は製品を売るだけにとどまらない。例えばグラブに提供しているのは、緊急時のコールセンターや通信システムなども含め、「ライドシェアの防犯システム」というパッケージだ。モノを売るメーカーが、相手のニーズを組み込んだサービスの担い手になり始めた。

 代表例が保険だ。19年に三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険の自動車保険で、「ドラレコ特約」が採用。ドラレコの映像があれば事故後のサポートや査定がスムーズになり保険業務を効率化できる。安全運転の支援機能もあるため事故抑制にもつながる。

 こうした新サービス向けのドラレコの台数は既に市販と同じ規模に育っており、18年度のドラレコの売上高は3年前の16倍になったという。19年度のドラレコ関連事業の売上高は全社の売上高予想(3100億円)の1割弱を占める見込み。好調な業務用無線システムなどとともに、最近の増収増益基調を下支えしている。

 JVCケンウッドは08年に旧日本ビクターと旧ケンウッドが経営統合、11年に合併して誕生した。当時、松下電器産業(現パナソニック)の子会社だった日本ビクターはビデオカメラなど映像技術にたけていたが、液晶テレビの不振が響き業績が悪化していた。

 一方のケンウッドはカーナビをはじめとする車載機器事業に強みがあった。統合の成果が最初に表れたのは、11年に発売された「彩速ナビ」という市販カーナビだ。同製品は現在も後継機が続くヒット商品に育っている。

ドラレコや無線システムなどがけん引し増収増益
●JVCケンウッドの連結業績推移
ドラレコや無線システムなどがけん引し増収増益<br><span>●JVCケンウッドの連結業績推移</span>
注:2018年3月期からIFRSでの開示
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