2018年3月期に20年ぶりに最高益を達成し、19年3月期もさらに営業利益を積み増した。リストラに追われた平井一夫前社長から、吉田憲一郎氏がバトンを引き継いで1年半。社内外の技術を取り込み、それらを糧に新たな事業を作り出す道が開けてきた。「技術のSONY」の復活はなるか。

米カリフォルニア州カルバーシティに本社を置くソニーの映画子会社、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)。ソニー本社のR&Dセンターで映像技術を開発する田中潤一統括部長ら開発メンバーは、この1年でSPE本社に足を運ぶ機会が増えた。
訪問先は、「ソニーイノベーションスタジオ」。SPEが2018年6月に設立した同スタジオの役割は、映画制作に最新技術の導入を進めることだ。田中統括部長らは、デモを交えて最新技術を紹介、制作現場が期待する技術の開発に結び付ける。
“チーム田中”の技術は思わぬところで生きた。SPEが今年6月に公開し、全世界で2.5億ドル(約270億円)の興行収入を記録した「メン・イン・ブラック(MIB):インターナショナル」。そのCM撮影に大きく貢献したのだ。
CMでは映画のシーンを想起させられるように、映画で実際に使ったセットを利用する予定だった。ところが、いざ撮影しようにも肝心のセットは解体済み。もう一度、組み直すには巨額の費用が発生してしまう。
「最新のテクノロジーで何とかならないか」。SPEのそんな求めにチーム田中が応じることができたのは、撮影済みの映像に、あたかも人やモノがその場にあるかのように映り込ませる技術を持っていたからだ。
似たような技術は存在する。例えば、CG(コンピューターグラフィックス)で撮影セットを復元し、撮影した人の動きを合成することはできる。ただ、CGでの復元では巨額の費用が発生し、何よりも時間がかかってしまう。
チーム田中の技術の核心は、撮影済みの映像データから撮影セットの位置情報などを割り出し、セットそのものを立体的に復元できるところにある。この新技術であれば、別途撮影した人やモノを加えた際に、いわゆる「合成感」をなくせる。しかも合成にかかる時間は極めて短い。上の写真のように、実際のカメラワークでは試せなかったアングルで新たな映像を作ることも可能になる。
SPEは、この技術を活用し、わざわざ撮影セットを新たに作り直すことなく、MIBのCMを制作。「本物の撮影セットを使ったような品質でCMを撮影することができた」と田中統括部長は胸を張る。
ヒット映画のプロモーションにひと役買ったソニーの最新映像技術。実際の映画制作でも応用すれば、これまでにない映像を創り出せるようになるはずだ。CGが臨場感の高い映画を可能にしたように、ソニーは新たな革新を映画界に呼び込むことになるかもしれない。その可能性をSPEは誰よりも知っているからこそ、「貪欲に最新技術を求めるようになっている」と田中統括部長は明かす。
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