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広島市に本社を置くオタフクソース。ソース製造では最後発から最大手の座をものにした。その要因は、存在しなかった「お好みソース」というカテゴリーを自ら生み出したことにある。ソースの販売は二の次。ひたすらお好み焼きを広め、顧客を育て続けた結果が花開いた。

オタフクソースが主催する開業研修。生地の作り方からキャベツの切り方まで教え、将来の顧客を育てる。常に定員いっぱいの人気ぶりだ(写真=村田 和聡)

 「湯気が出てキャベツが蒸れてきたらひっくり返してくださいね」。10月8日、東京都江東区にあるオタフクソース東京本部ビルで、6人の生徒が講師役の同社社員とともにヘラを両手にお好み焼きづくりに取り組んでいた。

 6人はオタフクが主催する開業研修の参加者。1年以内に開業を考えている個人が、4日間で30時間近くをかけてお好み焼きをおいしく焼くための技術と知識を習得する。

 年に20回以上開催されるこの研修。脱サラしてお好み焼き屋を開業したい、自分のお店を持ち独立したい、など参加者の思いは様々だ。当然、お好み焼きを焼いたことなど一度もない、という人も少なくないという。

 講義の内容は座学から実践まで多岐にわたる。生地の作り方、キャベツの切り方からビールのつぎ方まで教える。損益分岐点を上回るには売り上げがどのくらい必要かといったことも教えるなど、さながら開業支援のコンサルティングだ。

 4日間の研修のうち3日目にはオタフクの社員が客となって登場、実際に注文を受け目の前で焼き上げ食べてもらう仮想店舗体験もある。今回の研修に参加した田中大さんは「できるだけノウハウを吸収して、お酒が飲めて粉ものを食べられる立ち飲みバルを開業したい。でもこれは体力勝負ですね」と真剣な表情だ。

 同研修の受講者は年間約150人。最近では受講者の3割近くが実際に開店までこぎ着けているといい、これまでに受講者が開業した店舗数は累計1000店以上にもなるという。

東京進出でぶつかったカベ

後発のオタフクが首位に立つ
●ソース類の市場シェア
注:日刊経済通信社調べ、2017年度、生産量ベース

 オタフクはお好み焼きに塗る「お好みソース」が主力商品。ソース類では国内シェア25%と最大手だ。それがなぜ、お好み焼き屋の開業支援を手掛けているのか。原点にあるのは「まったくソースが売れなかった体験」(松本重訓取締役)だ。

 オタフクソースがソースに参入したのは1950年で、今ある大手ソースメーカーの中では最後発だった。広島の地方企業が全国に打って出ようと東京・大阪に同時に進出した80年代前半。先兵役として東京に送り込まれた当時若手の松本氏が味わったのが、無名の後発メーカーの悲哀だった。

 東京での知名度はゼロで、ロゴの「お多福」マークが似ていることから訪問先から「(おかめ)納豆はいらんよ」と追い返されることも多かったという。

 お好みソースはお好み焼きがあってこそ成り立つもの。「東京のようにお好み焼きを食べる文化がないところで売れるわけがない」(松本氏)と考え、始めたのがお好み焼きの普及活動だった。

日経ビジネス2019年10月21日号 60~64ページより目次