体脂肪計で国内シェア首位のタニタ(東京・板橋)が、個人事業主として独立する社員を支援する制度を始めた。雇用関係ではなく、個人事業主への業務委託として働き続けてもらい、元社員の所得を増やして意欲も引き出す狙いだ。個人事業主となった人たちは、どんな思いで、どんな働き方をしているのだろうか。

<span class="fontBold">2017年に個人事業主になった久保彬子氏(左)と武藤有悟氏。社員の枠にとらわれない働き方をしている</span>(写真=2点:竹井 俊晴)
2017年に個人事業主になった久保彬子氏(左)と武藤有悟氏。社員の枠にとらわれない働き方をしている(写真=2点:竹井 俊晴)

 「終身雇用が崩れる中、1つの会社に縛られずに働きたいと思った」。タニタが2017年1月に始めた社員の個人事業主化を支援する「日本活性化プロジェクト」。第1期の募集に手を挙げてフリーランスとなった久保彬子氏は今、タニタと契約して仕事を続けている。他社と手掛ける新規事業の開発を担当。週4日ほど出社し、協業先を提案したり、販路を開拓したりする。

 入社10年目で、これからどんな働き方をしていくべきかと考えていたときに新制度の募集が始まった。ずっと営業畑で、エンジニアやデザイナーのような分かりやすい専門性を持つわけではない。会社の説明を受けてみると「これまで手掛けた仕事を1本の柱として持ちながら、社内外で新しい仕事をするチャンスも得られる」と思った。

 新制度ではタニタで働く社員に退社してもらい、個人事業主としての契約に切り替える。タニタの仕事をしながら、外部で働いてもいい。現在、26人がこの形態で働いており、本社人員の1割強を個人事業主が占めている。

 発案したのは創業家3代目の谷田千里社長。「経営が傾き、十分な報酬を支払えないときでも、優秀な社員に残ってもらうにはどうしたらいいだろうか」。根底にはこんな不安があったという。08年に社長に就任し、リーマン・ショックを経験した。良質な人材を採用するだけでなく、流出させないことが経営の要と痛感していた。

 十分な手取りを保証し、かつタニタ以外の仕事をしたり、自由な時間に働けたりする環境を整えれば、優秀な人材を引き留められると谷田氏は考えた。日本企業が近年、在宅勤務といった働き方や副業を認め始めるなか、「働く人と会社の関係性そのものを根本的に見直すべき」という。

 雇用から業務委託契約へ──。新制度では原則として退社前まで担当していた仕事を基本業務として発注。それ以外で新たに発生する仕事は追加業務と位置付け、その都度本人と交渉して報酬を決めている。

 基本業務の報酬は独立する社員の退社前の給与・賞与をベースにしている。その上で会社員時代と同程度の社会保障を民間保険などでカバーした場合の費用を算出して決める。ただ、タニタがその従業員に支出していた社会保険の会社負担分などを含めたすべてのコストを超えない範囲としている。

 独立した元社員は報酬の中から、家族構成や価値観に応じて、年金や自分に必要な保障をカバーする保険などの商品を探して加入する。

3割増えた手元のお金

 税理士が確定申告の相談を受ける仕組みを備えており、交通費や自己研鑽のための研修費、交際費などが経費として認められれば所得から控除されて税額が減る。追加業務を請け負えば新たな報酬も発生する。第1期募集で独立した7人に会社からの報酬のうち手元に残るお金をヒアリングすると、独立前に比べ16.3~68.5%増えていた。

報酬は独立前の給与をベースに決める
●報酬の決め方と使い方の例
報酬は独立前の給与をベースに決める<br /><small>●報酬の決め方と使い方の例</small>
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