全4341文字

電気を利用するあらゆる製品に欠かせないコイルを巻く「巻き線機」で世界シェア4割弱を握る。単なる「機械屋」から抜け出し、顧客の生産技術の開発も代行することで自動車分野などを開拓。新興企業や模倣品の追随を受けるニッチトップ企業の生き残り戦略の1つのモデルとなりそうだ。

福島事業所で設備について学ぶインド拠点のメンテナンス担当者。右は電子部品向けの小型コイル(写真=左:阿部 勝弥、右下:林田 大輔)

 「巻き線の位置は0.2mmずらしたほうがいい」「線の送り幅を0.1mm増やそう」──。

 8月下旬、NITTOKU(旧・日特エンジニアリング)の福島事業所(福島市)ではインドから訪れたエンジニア4人と日本人技術者が議論を交わしていた。目の前にあるのは高さ1m50cm、幅70cmほどの機械。インドで納入を控えたコイルを作るための巻き線機だ。

 インド人は同社のインド拠点で設備のメンテナンスを担う現地採用の社員。それにもかかわらず、やり取りの多くは日本語でなされていた。

スマホから家電、EVまで

 4人のインド人のうち2人は日本語を理解している。その一人、2018年6月から19年5月末まで福島事業所に駐在していたヤダフ・アヌラジさんは「1年で日本語を分かるようになりましたよ。チョットだけど」とはにかみながら日本語で応じてくれた。

 なぜ日本語か。NITTOKUは主に日本で製造した機械を海外の顧客に納入するに当たり、海外の拠点でメンテナンスを担う人材が日本の開発・製造拠点を訪れる。そこで日本人技術者が開発の狙いを繰り返し日本語を中心に伝え、現地スタッフはカタコトの日本語であっても、意図を「すり合わせ」ながら現地での対応に生かしている。

顧客と技術を熟知する人材を育てる
●海外拠点のエンジニア育成の仕組み

 埼玉県さいたま市に本社を置くNITTOKUはコイルの銅線を巻く巻き線機で4割弱の世界シェアを握る。同じコイルでもスマートフォン向けの電子部品からEV(電気自動車)まで様々だ。

 スマホ向けには髪の毛よりはるかに細い銅線を巻いた針の先ほどの部品をつくる一方、自動車向けでは直径数十cmのコイルもある。「巻く」といっても線をつかみ、引っ張り、巻きつけるには線の太さや巻きつける対象物により大きな差がある一品一葉の世界。それゆえすり合わせが生きるともいえる。

 NITTOKUの技術力を頼り、福島事業所にはアジアや欧米など世界中の自動車メーカーや家電メーカー、電子部品メーカーなどが自らが必要とする仕様を相談しに訪れる。記者が訪れた日も、「最悪」とされる日韓関係とはうらはらに韓国企業の担当者の姿もあった。

日経ビジネス2019年9月16日号 76~79ページより目次