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全国の菓子・土産店を買収することで、地域の特色を保ちながら規模を広げる東証1部の上場企業。赤字や廃業寸前の事業を手中に収めては、経営をよみがえらせてグループの主力事業に育ててきた。毎日の朝礼を通じて企業理念を浸透させ、社員のモチベーションを高める手法が奏功している。

新宿駅地下の「レモンショップ バイ フランセ」では、女性店員が大きな声を出しながら試食を勧めていた(写真=栗原 克己)
 

 「ぜひ、ご試食ください」。東京・新宿駅西口の地下。洋菓子店「レモンショップ バイ フランセ」の店頭で、女性販売員が明るい声で呼びかけながら、切り分けたレモンケーキを勧めていた。土産物となる洋菓子で試食品を置く店は珍しくない。しかし、新宿駅の地下という人ごみの中で手渡ししながら大きな声で呼び掛ける様子は、往来する人の目を引く。足を止めて味を確かめると、そのまま購入する客の姿も多くみられた。

1円買収、グループけん引

シュクレイが運営する東京・青山のフランセ表参道本店は喫茶コーナーも併設(写真=栗原 克己)

 レモンショップは鳥取県米子市に本社を置く寿スピリッツの主要子会社、シュクレイ(東京・港)が洋菓子ブランド「フランセ」の新業態として4月に立ち上げた。フランセは2015年まで明治ホールディングスのグループ会社だった。赤字だったフランセを寿スピリッツが16年1月に1円で譲り受け、17年にシュクレイが吸収合併して現在の形態になった。シュクレイの一部門として再出発したフランセの菓子は「みんなが贈りたい。JR東日本おみやげグランプリ」で今年、総合グランプリを受賞している。

 シュクレイで企画開発部長を務める山口浩二氏はフランセ出身。寿スピリッツの傘下に入ると「何もかもが変わった」という。かつてはガラスケースを挟んでの接客が基本だったが、販売員が積極的に試食を勧める手法に転換。自らが責任者である開発でも経営幹部にほぼ毎週、新商品候補のプレゼンテーションを行うようになったという。

定番土産から高級ギフトまで

 東証1部上場の菓子メーカー、寿スピリッツはフランセに限らず、多くの菓子会社を傘下に収めながら成長してきた。純粋持ち株会社として販売会社を含めると北海道から九州まで国内に16の子会社を持つ。本社がある鳥取の和菓子「因幡の白うさぎ」から、東京・南青山でハンドメイドのキャラメルバーを扱う「ジェンディー」まで多様な菓子・土産物ブランドを扱う。「白い恋人」の石屋製菓、「東京ばな奈」のグレープストーンといったライバルの菓子メーカーの中でも買収戦略による多ブランド化は異彩を放つ。

山陰銘菓の「因幡の白うさぎ」。地元の定番土産として定着した

 過去の買収を振り返っても、不振事業に目を付けて再生させる方針は一貫している。北海道千歳市の子会社、ケイシイシイは廃業寸前だった工場を引き取り、1996年に設立した。買収後に冷蔵チーズケーキを北海道土産としてヒットさせ、シュクレイと並ぶ稼ぎ頭となっている。シュクレイもルーツをたどると98年に自己破産し、寿スピリッツの傘下に入った東京・築地の老舗和菓子会社にたどり着く。

日経ビジネス2019年8月19日号 50~53ページより目次