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 I-SUPは、ベンチャー投資会社のインスパイア(東京・港)とマレーシア政府系投資機関プルモダラン・ナショナルが組成したハラルファンド(イスラム法に沿って投資するファンド)からの出資も受け入れた。これだけ外の血を受け入れたのは初めてのことだ。

 ここから読み取れるのは、井村屋がこれから「アンナミラーズを超える創業以来最大の挑戦をしようとしている」(浅田会長)ということ。これまでは得意のあずきから派生した商品での挑戦が多かったが、今後はアンナミラーズと同等か、それを超えるくらい新たな領域へ飛び出そうとしているようだ。

 中島社長も「これまではあずきがすべての中心だった。しかし企業としてある程度の規模にまで達し、さらに成長、飛躍するには、あずきから離れた食品で完全に新たな柱を作らないといけない。そうした局面にきている」と話す。

全社員の評価シートに目を通す

 ではどんな領域にジャンプしようとしているのか。まさに模索の真最中だが、「健康」や「海外」、「和」などにそのヒントを見つけようとしている。

 中島社長が言うように、企業規模でも井村屋は転換点を迎えようとしている。2019年3月末の従業員数は944人。企業規模に合わせるように毎年少しずつ増えており、1000人に到達するのも時間の問題だ。中堅企業から大企業への移行期、と言っていいかもしれない。

 だが、長年にわたり井村屋を率いてきた浅田会長、そして新社長に就任した中島社長のマネジメント術は「マイクロマネジメント」そのものだ。

 例えば人事評価。全社員の評価を、その社員の上司が浅田会長や中島社長を含む経営陣の前で読み上げ、上司はその社員への評価に加え、今後期待する点などを報告する。経営陣はそれに対し「こんな声も聞くよ」といったコメントを返していく。こういったことが全社員分、1日かけて延々と続けられる。

 中島社長は「全社員の自己申告シートに目を通す。社員の子供の病気や悩み、結婚の時期なども把握している」という。中島社長が常に持ち歩いているA4サイズのノートには、いつでも目を通せるように多くの社員の情報がびっしりと書き込まれている。

 浅田会長や中島社長が社内ですれ違って「いつもと違うな、元気がないな」と感じた社員がいると、その上司に声をかけ、何か起きていないか確認もさせる。普段の社員の様子を把握していないとできない芸当だ。髪を切ったというような変化にも気づくという。

 なぜここまで社員全員にコミットするのか。井村氏が定めた社是に「商品こそわが生命(いのち)、人こそわが宝」とあるからだ。「一人ひとりをしっかり把握することが、企業風土、企業文化を守り伝えていく、つまりは老舗を守っていくことにつながる」(中島社長)。そのためにトップは片時も手を抜かない努力が求められる。

 その姿勢は随所に表れる。浅田会長はどんな小規模の社内研修でも、すべて最初に自ら社員の前に立ち、研修の目的や意味を説く。また社内向けであっても社外向けであってもスピーチ原稿を他人任せにせず自分で書く。すべての社員にトップが「口を酸っぱくして思いを何度もひたすら伝え続ける」(浅田会長)ことが社員に井村屋イズムを伝える肝だと考えているからだ。

 マイクロマネジメントは活発な商品開発にもつながっている。浅田会長は自らが商品開発会議に出席、試食をしてコメントをする。「神の舌」を持っているわけではなく、本人も若い女性をターゲットにした商品の場合、70代の自分が食べておいしいかどうかで決めても意味がない、と自覚はしている。

日経ビジネス2019年8月12日号 64~68ページより目次