全6607文字

定番「あずきバー」も試行錯誤

 井村屋は肉まんなど総菜類や調味料など幅広い商品を手掛けているが、あずきバーを含む冷菓はジャンル別で最大の売り上げを誇る。あずきバーの伸びと軌を一にするように、2019年3月期の連結売上高は10年連続増の451億円、純利益も12億円超と過去最高益を更新した。

あずきバーは今や井村屋の屋台骨だ
●2019年3月期のカテゴリー別売り上げ構成
[画像のクリックで拡大表示]
前期の純利益は過去最高を更新した
●井村屋グループの連結業績
[画像のクリックで拡大表示]

 見た目にはほとんど変わらない定番商品のあずきバーだが、試行錯誤を繰り返している。あずきバーは口触りをなめらかにする添加物を入れていないため硬いのが特徴だ。とはいえ、柔らかい方が食べやすいのではないか。購入者の平均年齢が50代以上というデータもあることから、柔らかいあずきバーを1992年、97年、2010年に投入したが全く売れず、いずれも販売を取りやめている。

 代わりに最近打ち出しているのが健康志向だ。添加物が入っていないということはより自然に近いことを意味する。あずきバーを購入する消費者は健康志向が強いのではと考え、昨春に今度は「オーガニックあずきバー」を投入した。あずきと砂糖を有機原料に変えた井村屋初のオーガニックアイスだ。

 若者にも目を向けてもらおうと、今年4月からは「あずさんは、ガードが固い」とあずきバー好きのヒロイン「あず」に恋心を抱く社会人「いむら」という恋愛に例えたストーリーをツイッターにあげた。若い社員の発案を浅田会長は「面白いんじゃないの」と笑顔で後押しした。

浅田会長は「あずきバー」を3億本売る目標を立てている。人口減少社会のなか「売り方、売れる地域を常に考え続けていかないと目標は達成できないぞ」とハッパをかける(写真=上野 英和)

 変化と挑戦こそが浅田会長が口酸っぱく社員に伝えているメッセージだ。井村屋の開発部門はここ5年で人数が倍近くの約70人に増え、平均年齢が30代前半から20代に低下した。浅田会長は若い感性をどんどん投入し、変化を生み出そうとしている。

 そもそもアイスクリーム参入という挑戦をしたのは井村氏だ。アイスでは後発メーカーで、当初はバニラ味など他社と同じような味を模索したもののうまくいかない日々が続いた。だが井村氏の「うちにはあずきがあるやろ」の一言で、ぜんざいを凍らせたあずきバーが完成した。ようかんやぜんざいなどを長く手掛け、あずきでは一日の長があることを生かした。

 挑戦と変化で老舗の座を揺るぎないものにしてきた井村屋だが、今年、浅田会長が中島新社長という刺激を新たに会社に与えたのには、2つの危機感が頭をもたげてきたからだ。

 一つが時代の大きな流れ。「今は経済も政治も流通も変わり目で非常に難しい局面にきている。ひたひたと変化が近づいている」(浅田会長)。中島社長も「今は時代の変わり目。食品業界は少子化で絶対に厳しくなる」とツートップの危機感は一致する。今までと同じ変化や挑戦では、時代の大きな変化に対応しきれないかもしれない、という、これまでとは違う初めて感じる種類の不安が浅田会長を襲っている。

日経ビジネス2019年8月12日号 64~68ページより目次