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AI(人工知能)開発の有力スタートアップ。特異なのは、エンジニアの9割がベトナム人という点だろう。ベトナムが早くからデジタル人材の宝庫であることに目を付け、よりすぐりのAI人材を集め、育成してきた。今年は台湾にもAI人材の拠点を開設、さらなる人材の獲得を狙う。外国人の戦力化術を探ってみた。

シナモンがベトナム・ホーチミンに抱えるAIラボ。約40人のAI人材が働いている(写真=2点:町川 秀人)

 ベトナム南部の商業都市、ホーチミン。中心部から少し離れた閑静な住宅街に、ヴィラ風の白い建物がある。中からパソコンのキーボードをたたく音が聞こえてくる。2階のスペースでは、大きな長方形のテーブルを囲むように十数人。画面を見ながら、黙々と仕事をしている。

 ここは、日本のAI(人工知能)スタートアップ、シナモン(東京・港)のオフィスだ。4階建ての建物を丸ごと借り、約40人がAIソフトの開発を進める。

 ベトナムの安い人件費を生かして、簡単なプログラムを作成していると思ったら大間違い。彼らはベトナムのよりすぐりのAI人材だ。ほとんどがベトナム国家大学ハノイ校やハノイ工科大学といった、日本でいう東京大学や東京工業大学に相当するトップ大学の出身者。「東京大学大学院と同程度かそれ以上の難度の高いプログラムをパスして入っている」とシナモン創業者の平野未来CEO(最高経営責任者)は胸を張る。

 シナモンはこうした高度なAI人材をホーチミンとハノイで計約90人抱えている。シナモンのエンジニアの実に9割がベトナム人となる計算だ。今年は台湾にも拠点を設け、現地のエンジニア採用を積極化。2024年にはAI人材を500人規模に増やす計画を練る。

シナモンのAI人材は9割以上がベトナム人
●AI人材の国籍別人数
右肩上がりでAI人材を増やしてきた
●シナモンのAI人材の推移

 シナモンは平野CEOと堀田創CTO(最高技術責任者)が12年にシンガポールで創業した会社が前身。当初は写真共有アプリの開発を手掛けたが、16年に東京に本社を移し、AIを活用した業務代行ソフトの開発を始めた。

 販売する「フラックス・スキャナー」の特徴は、請求書や納品書などのPDFやワード文書、手書き資料などフォーマットが異なる文書を、AIが読み取ってデジタルデータ化することにある。従来は決められた書式の定型文書の読み取りはできたが、書式にこだわらずにデジタル化するのは難しかった。

 同社は会議やコールセンターなど会話のやり取りから、必要な情報を抽出する音声認識サービスも展開する。こうした業務の効率化に役立つソフトやサービスを日本企業に提供。その将来性を見越し、ソニーや野村ホールディングスのCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)や住友商事などが出資している。

 成長を支えるのが、冒頭で見たベトナム人エンジニアだ。それにしても、なぜ、同国を代表するトップクラスの人材がシナモンに集まるのか。

AIで文書作成など事務作業の多くの仕事を代替できる
●文書認識サービス「フラックス・スキャナー」のイメージ

 シナモンがベトナム人材に目を付けたのは13年。平野CEOによれば、「東大では理工系学生のわずかしかコンピューターサイエンスを専攻しないが、ハノイ工科大学では約3割に上る」。東南アジアでも屈指のコンピューター人材層の厚みに着目したのだ。前身会社の子会社として堀田氏がオフィスを立ち上げた。