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肉ブームの火付け役ともいわれる人気チェーン「いきなり!ステーキ」。店舗網の急激な拡大があだとなり、既存店売上高が1年以上、前年割れを続けている。何が誤算だったのか。復活するすべはあるのか。苦闘が続く現場を取材した。

閉店したコンビニ店舗に17年に居抜き出店した八潮ロード店(埼玉県八潮市)。郊外の幹線道路沿いの店を急速に増やした(写真=尾関 裕士)

 梅雨入りから間もない6月10日、午前11時。東京スカイツリーから徒歩数分の幹線道路沿いに、外食チェーン「いきなり!ステーキ」の463番目の店、墨田太平店(東京・墨田)がオープンした。あいにくの雨に見舞われたが、店先には同店を展開するペッパーフードサービスの創業社長、一瀬邦夫氏の姿があった。風にあおられた冷たい雨粒が頬を打っても、傘も持たずに来店客を出迎え、声を掛ける。

 一瀬社長にはこの店への特別の思い入れがあった。一見しただけでは他店舗との違いは感じられない。だが、ここは社員の接客や店舗運営の技量を集中的に鍛える“虎の穴”なのだ。「店舗を広げたことで増えてしまったクレームをゼロにしたい」。一瀬社長は語る。

 東京・錦糸町の本社から目と鼻の先の場所にあり、全国の店舗から集めた社員が実際に接客営業をしながら、その場でベテランのトレーナーの指導を受ける。胸に若葉マークをつけた店員の一挙手一投足にトレーナーが目を光らせ、耳元で指示を与えていた。実際の店舗で、本物の客を相手に営業をしながら指導することにより、短時間で社員の技術を引き上げる。

 研修施設を兼ねるだけに、来店客に不便な思いをさせる恐れがあることも念頭に置き、店先に「平日ランチはメイン商品100円引き!研修店舗につき、従業員の不手際はお許しくださいませ」と、客の了承を求めるポップを掲げた。

 人材育成を急ぐ背景に、いきなり!ステーキの深刻な不振がある。開店から15カ月以上を経た既存店の売上高が2018年4月以降、今年4月まで13カ月も連続で前年実績を割り込んでいるのだ。3月は約27%落ち込んだ。「単月の数値に一喜一憂すべきではないが、既存店売上高が前年実績の7割台で何カ月も推移しているのは厳しい。業態設計や立地戦略を含めて大胆な方向転換が必要な水準だ」。競合する大手外食チェーン幹部は漏らした。

 1985年にペッパーフードサービスの前身である有限会社くにを設立した一瀬社長は、94年にステーキをファストフード感覚で食べられる「ペッパーランチ」を立ち上げ、約20年で国内外に200店以上を展開した。その経験を基に、東京・銀座で2013年に立ち上げた新業態がいきなり!ステーキだった。同事業が18年12月期の連結売上高635億円の85%を占める。

郊外への急速出店があだに

 いきなり!ステーキは「ステーキを大衆食に」というコンセプトの下、良質の肉を求めやすい価格で提供することを目指した。人気レストランチェーン「俺のフレンチ」にもヒントを得て、立食カウンターや座面の高い椅子席を中心にして客の回転率を高めることで、外食チェーンでは通常3~4割とされる原価率を6割まで引き上げた。

 値打ち感のある価格で質の高いステーキを食べられることで人気を博し、糖質制限ダイエットに伴う「肉ブーム」のけん引役と称されるようになった。「出す店、出す店、もうかった」。一瀬社長はそう振り返る。

 しかし、ペッパーフードサービスの18年12月期は最終損益が1億2000万円の赤字(前の期は13億円の黒字)。米子会社の業績悪化が主因だが、いきなり!ステーキの既存店の減収もあり、国内事業でも補えなかった。人気業態なのになぜ突然、失速したのだろうか。取材を重ねると、成長のスピードを重視するあまり、経営戦略にほころびが生じている実態が見えてきた。

日経ビジネス2019年6月24日号 58~62ページより目次