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リーマン・ショック時に業績が低迷したエーワン精密。製造業としては異例の利益率3割を再び超えてきた。同じ製品・サービスでもいち早く提供すると価値を生むと考え、スピード出荷を達成することに集中している。注文を受けた瞬間から、加工を終えるまでの時間短縮に潜む独自の工夫を探った。

主力製品のコレットチャック(写真=栗原 克己)
唯一の工場が山梨県韮崎市にある(写真=栗原 克己)

 山梨県韮崎市の緑豊かな地にあるエーワン精密・山梨工場。人影まばらなオフィスに電話の呼び鈴が鳴り始めると、その瞬間に女性社員が受話器を取った。顧客の機械メーカーから急遽、主力品であるコレットチャックに注文が入ったようだ。受注担当の女性は細かくメモを取り、作業指示書を書き始める。「滑り止めの溝を入れるのか」「つかむ部分の形状はどうするか」。細かな要求もその場で確認して作業指示書に反映すると、エアシューターで工場内の作業現場に送った。注文を受けてから、ここまで5分。あっという間に加工が始まった。

半製品活用で1時間仕上げも

 エーワン精密は工作機械に使う部品を扱うジャスダック上場メーカー。シャープペンシルが芯をつかむのと同じ原理で加工物を固定するコレットチャックを主力とし、小型旋盤向けでは国内シェア6割を占める。小さな池の大きな魚といえるようなニッチトップ企業だ。売上高は約20億円(2018年6月期)、社員約100人と町工場のような規模だが早くから製品のスピード供給を一枚看板に掲げて顧客を広げてきた。

 創業者の梅原勝彦相談役は「技術力は確かにあるが、他社にまねができないほど高いわけではない」と話す。それよりも重視するのは、すぐに出荷して使ってもらい、顧客の工作機械の稼働を止めないことだ。取引先の信頼は厚く、9割近くをリピート客が占める。素早く届く便利さは顧客をとらえて放さず、創業以来の売上高経常利益率は平均で約35%となっている。

東京都府中市の住宅街にある本社(写真=栗原 克己)

 山梨工場のほか東京都府中市の本社にいる受注担当者は、電話なら「2コール以内」、ファクスなら「2分以内」に応対を始めるのが社内ルール。取引先は約1万6000社あり、大手から町工場まで幅広い。作業現場から急ぎの注文が頻繁に入るため、大半を電話とファクスで受け付けている。

 製造現場では半製品を使用頻度や加工のバリエーションに応じて、3~9割まで仕上げてストックしている。オーダーメードに近い製品が多いため、その数は約3000種類、8000点に上る。加工の進んだ半製品を使えば注文から1時間ほどで完成品ができる。バーコードを使い、1品種ごとに保管用の棚から出し入れするたびに点数を厳密に管理し、在庫量を常に一定にしている。

日経ビジネス2019年6月3日号 72~75ページより目次