ハウス栽培の効率化プロジェクトでは、デンソーはハウスメーカーの大仙(愛知県豊橋市)、種苗メーカーのトヨタネ(同)と手を組んだ。農業用ハウスそのものとハウスで作物を育てるノウハウを持つ2社と知見をすり合わせることで、デンソーが強みを持つ制御技術を生かすわけだ。

 農業用ハウスでは、これまでは農家の「勘コツ」で栽培をしてきた側面がある。例えば、換気扇。ハウス内の温度や湿度を制御するために必要だが、実際に換気扇をつけたり消したりするタイミングは、作業者の勘に任されている。そこを、緻密な制御で最も生育ペースが速まるように制御できれば、農家の期待に応えられる。

 カーエアコンを得意とするデンソーからみれば、そうした快適な室内環境を実現するのは難しいことではない。あとは、どんな条件になれば、作物にとって「快適」なのかをパートナーと探ればいい。

 作物が乾かないように霧を吹き付ける作業でも、デンソーのノウハウが生きる。高級車では日が当たって暑い側に座る人にはより多くの風を送り込み、そうでない人には少ない風を当てる技術が採用されている。デンソーは噴霧器にこの制御ノウハウを応用した。

 デンソーが心掛けるのが、メーカー視点の発想を捨てること。メーカーはとかく新しい設備の開発に目が向きがちで、自社の技術やノウハウをなんとか生かそうとして失敗するケースが少なくないからだ。

<span class="fontBold">農業従事者と積極的に交流するデンソー社員(左の2人)。写真は大規模ハウスを共同開発する提携先の浅井農園</span>
農業従事者と積極的に交流するデンソー社員(左の2人)。写真は大規模ハウスを共同開発する提携先の浅井農園

 例えば、10年前後に大手メーカーなどが参入した「植物工場」。作物を入れた植木鉢を特殊なベルトコンベヤーに載せて定期的に動かすことで日照時間を均一にするといった斬新な施設もあったが、結局は投資額が膨らみ、普及には至らなかった。新しいモノを作って革新的な成果を出そうとしても、ユーザーにとって「割高」と思われては結局は使われない。

 デンソーも農業ハウスでは、農家の投資負担を軽くしようと心掛けた。すでにある換気扇や噴霧器をどう活用し、そこに付加価値をつけるか。作物の育成に必要なノウハウを農家などから徹底的に聞き出さないと、実現は難しい。

 デンソーと大仙、トヨタネの3社は昨年12月、中小規模の農家向け次世代農業用ハウスの開発と普及を目指した新会社を設立、今年5月からデンソーの制御技術を生かした次世代ハウスの販売を始める計画だ。

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