新事業の担い手となるのが、社内で「フリーエージェント制度」を通じて募った人材だ。同制度自体は新規事業開発部門ができる以前の1998年に導入したが、「(新規事業開発の)活動の本格化で効果が如実に表れるようになった」(同社社会ソリューション事業推進部長の永井立美氏)という。

新規事業を成功に導く「人選び」
●デンソーが新規事業開発で導入するフリーエージェント制度の流れ

 例えば、農業用ハウスの開発に向けて流体力学や温度制御などのノウハウを持つ人材を社内で募集すると、各事業部門の我こそはと思う人材が手を挙げる。この段階では、人事部門はその人材が所属する部門長に手を挙げたことを知らせない。優秀な人材ほど外に出したがらない上長が壁になるからだ。

 プロジェクト責任者は立候補者全員と面談したうえで採用者を決める。SCOT責任者の奥田英樹メディカル事業室長の場合、「とにかくどれだけ熱意があるかを重視した」という。新規事業開発は既存事業の仕事に比べて外部との交渉事が多い。自動車業界では名の知れたデンソーでも、業界外では「デンソー? 聞いたこともない」という反応がほとんど。新規事業を成功させる熱意がなければ途中でくじけてしまう可能性が高いからだ。

 所属先の上長に採用を報告するのは「事後」。新規事業は社長直轄の部門で、何より重視される。既存事業はもちろん大事だが、新分野を切り開く会社の本気度を示すことで、社内での人材の流動性も高めている。

異業種を知り、新事業を作る

 では具体的にどうやって新しい事業を立ち上げるのか。ここでデンソーが重視するのが「オープンイノベーション」だ。医療なら信州大学などとのプロジェクト、バイオならミドリムシ栽培のユーグレナ、というように各分野の専門家と手を組む。

 農業領域の事例でその流れを見ていこう。

 まず、フリーエージェント制度で集めた人材を中心に農家を直接訪問し、どんなニーズがあるのかを徹底的に探る。そうしたニーズの中から、自社の技術で解決できそうなものに絞り込んでいく。そこで見つけたのがハウス栽培の効率化。ハウス栽培のスピードは、ハウス内の環境を最適に制御できるかで決まるが、それはクルマ内部の環境を制御するノウハウと似通うことに気づいたからだ。

 自社で解決できるニーズが明確になったら、パートナーを探す。その道の専門家が持つ幅広い知見を生かしながら、確実に事業化に結び付けるためだ。「クルマ以外で我々は素人。専門家に教わることの中にしか、良い商品を生むヒントはない」。農業領域を担当するAgTech推進部長の清水修氏はこう言い切る。