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トヨタ自動車系の有力サプライヤーで、自動車部品業界で独ボッシュと並ぶ存在感を放つ。だが、クルマだけで生き残るつもりはない。大赤字に転落したリーマン・ショックで一本足打法の限界を知った。医療や農業、ファクトリーオートメーション──。クルマ技術で新事業を拓(ひら)く道を模索する。

デンソーの生産工場で生まれたIoT(モノのインターネット)の技術を生かし、医療機器をつなげた信州大学医学部付属病院のスマート治療室(写真=堀 勝志古)

 長野県松本市。地域の医療を支える信州大学医学部付属病院に今、世界の脳外科医が熱い視線を注ぐ。昨年7月、次世代の手術室を体現する「スマート治療室」が動き出したからだ。

 「スマート・サイバー・オペレーティング・シアター(SCOT=スコット)」と名付けたこの手術室の特徴は、血圧や心電図などを監視する生体情報モニターや麻酔装置、電気メスなど手術で使うほとんどの機器がネットでつながっていることだ。

 脳外科手術で医師は通常、電気メスが脳のどの部分にあるかを視認できるCT(コンピューター断層撮影装置)の画像を用いたナビゲーションシステムの画面を確認しながら、電子顕微鏡をのぞいて電気メスで執刀する。誤って脳内の神経を傷つけたりしていないか。長時間に及ぶ場合もあるだけに、執刀する医師の負担は重い。

 機器同士がつながるSCOTはそんな医師をサポートする役割を担う。これまで別々だった画面を1つの画面上に表示。場面に応じて注目すべきデータを選んで映し出す機能もある。重要な情報を手術室内にいる全員が共有でき、執刀医は手術に集中しやすくなる。

 手術中、医局にいる教授が遠隔モニターで見守ることも可能だ。専用のマイクとタッチペンを使えば、現場の医師に具体的な指示を送ることもできる。

 SCOTで実際に手術をしながら作業効率や安全性を検証している信州大学医学部の本郷一博教授は、「医師の負担軽減で外科医不足の解消にもつながれば」と期待を寄せる。

SCOTに「ミドルウエア」を提供

 こんな未来の手術室の実現を目指すのは信州大や東京女子医科大学など5大学と、日立製作所など11社のプロジェクトチームだ。そこにデンソーが名を連ねる。自社工場の生産設備をネットでつなげる技術を応用して、医療機器をつなげるための基盤となる「ミドルウエア」を開発、SCOTの中核技術として採用されている。

実証実験では常にデンソーの社員が立ち会い、システムに問題がないかを検証している(下)(写真=左2点:堀 勝志古)
日経ビジネス2019年3月18日号 80~84ページより目次