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トヨタとの関係にも異変

 そうした危機感に火をつけるような事態も起きている。

 「(トヨタ自動車が出資を決めた企業の)ドアを開けると、いつも孫さんが先にいた」

 昨年10月4日、トヨタの豊田章男社長が握手をした相手は、ソフトバンクグループの総帥、孫正義氏だ。配車サービスや移動サービスで提携した。そこにKDDI関係者の姿はなかった。

新しいモビリティサービスでの提携を発表し、握手をするトヨタ自動車の豊田章男社長(右)とソフトバンクグループの孫正義会長兼社長(写真=共同通信)

 KDDIにとってトヨタは大株主。これまでずっとKDDIは通信機能を備える「コネクテッドカー(つながるクルマ)」で必要となる通信システムをトヨタに提供してきた。だが、自動運転や新たな移動サービスなど、巨大市場が見込まれる分野でトヨタが選んだのはソフトバンクグループだった。

 京セラ名誉会長の稲盛和夫氏が創業した通信ベンチャーの第二電電(DDI)とトヨタ系携帯電話会社の日本移動通信(IDO)。1985年に通信自由化を契機に登場したこの2社と、98年に完全民営化を果たした国際電信電話(KDD)が合併して2000年に誕生したのがKDDIだ。それが今や社員数はグループ全体で3万8000人を超え、19年3月期の連結売上高が5兆円、連結営業利益は1兆円を見込む。

 ベンチャーから5兆円企業へ。大企業となったが、ゲームのルールが変わった今、もう一度問われるのはリスクを恐れず挑戦するベンチャー精神だろう。

 業界では「楽天にかなり有利な条件をのんだ」(業界関係者)との声もある今回の提携。高橋社長には、携帯事業が稼ぎ出す安定収益にあぐらをかかず、成長に向けた挑戦を続けるカルチャーを取り戻したいという思いがあったのかもしれない。

アナリスト座談会
KDDI・楽天連合誕生も

KDDIのM&Aや提携戦略に関するこれまでの取り組みを、どう評価していますか。

[アナリストA]投資家サイドからみて確実に『成果があった』と言えるのは、情報通信分野の提携だ。かつてのケーブルテレビ大手ジュピターテレコムや通信会社パワードコムの買収などは、NTTに対抗して顧客基盤を広げるという意味があった。

[アナリストB]問題は将来の成長を担うはずの非通信事業。あまりに小粒な提携内容ばかりで、評価が極めて難しい。そもそも企業規模の大きいKDDIの経営にインパクトを与えているとは思えない。

[アナリストC]大コケが少ない印象なのは危険な橋を渡らないからだろう。

ソフトバンクやドコモもM&Aや業務提携に積極的です。

[C]投資効率の観点では、特にソフトバンクの戦略が興味深い。親会社が投資しているグローバルの先進企業と合弁会社を作り、そのブランドを使って国内サービスを展開する。KDDIは数百億円を投じて日本企業を買収し、そこからサービスを伸ばそうとしているが、どちらが投資効率が高いかは自明だ。

[アナリストD]KDDIと言えば、スタートアップ育成プログラムのムゲンラボが有名だ。その立ち上げ当初から関わってきたのが(現社長の)高橋さん。だから、国内スタートアップからのKDDIの評判は悪くない。結果としてM&Aの話が持ち込まれるケースも増えているようだ。

[B]ただ、1社への投資金額が多すぎるきらいはある。IoT通信サービスを手がけるソラコムの買収には約200億円投じたといわれている。技術力を買ったというが、傘下にKDDI総合研究所も抱えているのに、それでいいのか。

楽天との提携については。

[A]非通信事業を早く何とかしたい、という思いが強かったのだろう。KDDIにも決済や物流の基盤は作れるだろうが、この領域はとにかく変化が速い。時間を買うという意味で今回の提携は意義がある。

[B]一方で楽天も、これでずいぶん助かったはずだ。当初はドコモともローミング交渉はしたものの、ドコモ側の反応はかなりビジネスライクだったと聞く。

[A]政府は携帯業界の競争を促して料金を引き下げさせるため、新規参入する楽天にかなり肩入れしてきた。そこを助けることで、政府との関係を少しでも改善したいという計算もKDDIには働いているのではないか。

両社がネット通販などで一段と深い提携に踏み込む可能性は。

[C]そう単純な話ではないだろう。楽天はネット通販を核に大量の会員を囲い込み、独自のエコシステムを作り上げてきた自負がある。通信インフラ以外でKDDIに頼る必要はないと考えているはずだ。ただ、莫大な投資を伴う携帯事業の成否にもよる。ソフトバンクとヤフーが連携を強めてネット通販のシェアを伸ばしている。今後の競争環境を踏まえると、長期的にはKDDI・楽天連合が登場する可能性は十分にあるとみている。


(高槻 芳)

日経ビジネス2019年1月28日号 56~59ページより目次