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1割が「非通信」になったが……

 それに対し、KDDIのワウマは開設が17年と後発。規模がものをいう物流ネットワークを効率化するには、楽天のような大事業者と組むのが近道だ。

 最近、競争が激化しているキャッシュレス決済でも楽天との連携に期待をかける。KDDIはスマホ決済「エーユーペイ」を19年4月から始めるが、全国120万店の加盟店網を持つ楽天の決済ネットワークと相互乗り入れできれば、一気に利便性が高まる。こうした青写真通りにことが進めばKDDIのメリットは確かに大きいだろう。

 こうした非通信事業の強化はKDDIが進めてきた戦略の延長線上にある。同社はM&A(合併・買収)や業務提携を積極的に展開してきた。

 M&Aについては16年度から「3年で5000億円を成長分野に充てる」との方針を掲げ、これまで20社以上に計4200億円を投じた。18年は飲食店の口コミサイト「食べログ」を運営するカカクコムに793億円を出資。英会話教室のイーオンホールディングスや、子供が就業体験できる施設「キッザニア」の運営会社、KCJグループ(東京・中央)を買収した。

 KDDIの顧客を買収企業や提携先に送り込む。「IoT(モノのインターネット)」や大容量のデータを瞬時に送れる次世代通信網を活用した語学学習や就業体験など新たなサービス開発につなげる――。KDDIは一連の提携を通じてそんな相乗効果を期待する。

 もう一つはスタートアップの育成による「青田買い」だ。11年に「ムゲンラボ」というプログラムを立ち上げた。イオンリテールやJR東日本など他業種の大手企業を招き、選考を勝ち抜いたスタートアップに対し、事業立案やサービス開発などを支援してきた。

 こうした路線は一定の実績を残している。18年3月期の非通信事業「ライフデザイン」の営業利益は1000億円を突破。全社の1割を占めるまでに成長した。

 その先頭に立ってきたのが18年4月に就任した高橋社長だ。携帯電話向けのネット接続サービス「EZweb」の開発に携わり、音楽配信や動画配信などを導入した。以来一貫して新事業を担当。その経験から外部企業との交流は幅広い。「大企業のトップというよりネットサービス業界の人、という印象が強い。今でも気さくに話してくれる」(ムゲンラボの卒業生)。

 大手意識は相手に見せない。そんな社長の流儀を受け継いだのが「新事業の立ち上げ経験を持つ人を社内からかき集めた」(中馬和彦ビジネスインキュベーション推進部長)という40人のチームだ。「KDDIの持つ経営資源が相手のビジネスにどう生かせるかをまず考えよう」。東京・渋谷の複合施設「ヒカリエ」にあるオフィスでは、社員がこんな会話を交わしながら日々、新たな提携先の開拓に奔走する。

 IoT用途向けの通信サービスを手がけるベンチャーのソラコム(東京・世田谷)はその成果の一例だ。KDDIが17年夏に約200億円で買収したこの会社は、IoT市場の拡大という追い風もあり、契約回線数を伸ばしている。

 有望企業の目利きに余念がないKDDI。外部との連携の積み上げで非通信事業の業績を伸ばしてきたが、その路線が今、転換点に立っている。

競争の次元が変わりつつある

 ここへきて「ゲーム」のルールが大きく変わりつつあるのだ。

 仕掛けているのはソフトバンクだ。その親会社ソフトバンクグループは、世界で急成長中の企業に巨額出資している。ソフトバンクはその出資先と日本で合弁事業を立ち上げ「世界で成功したモデルを日本に持ち込む」(宮内謙社長)手法を進めている。

 例えば世界でシェアオフィスを展開する米ウィーワークや中国の配車サービス大手の滴滴出行。ソフトバンクとウィーワークは17年7月に国内合弁会社を設立し、現在は東京や大阪などにシェアオフィスを計12カ所運営する。滴滴とは18年6月設立の合弁会社を通じ、AI(人工知能)を搭載した配車システムを18年秋からタクシー会社に提供し始めた。

 ソフトバンクは親会社のおかげで、世界で実績を残している新興企業のサービスを導入しやすい立場にあるのだ。自社でリスクを取ってM&Aに資金を投じるKDDIに比べ、有利にゲームを進められる。

 一方、ライバルのもう一社であるドコモの武器は他を圧倒する顧客基盤。携帯電話契約数は18年9月末時点で7700万件と、2位のKDDIの約1.5倍だ。国内で携帯事業者と連携した新サービスを始めたい企業は、まず業界ナンバーワンの会社に話を持ち込む。ドコモは「選べる」立場にあるわけだ。

 18年4月に始めたスマホ決済サービス「d払い」では当初からローソンなど10社が対応を表明。19年3月までのわずか1年間で1万9000店で利用可能となり、早期に10万店へ広げる目標をぶち上げている。それもドコモユーザーへの販促効果を期待する店舗側からの協力が見込めるからこそ。しかも「ドコモの顧客層はシニアなど優良顧客が多く、保険などの金融サービスを利用してもらいやすい」(あるアナリスト)という強みがある。

 世界の有力な新サービスを比較的たやすく取り入れられるソフトバンク、提携相手から第一候補として話が持ち込まれるドコモ。その両社に対抗するため大きな勝負に出たのが楽天との提携だ。

日経ビジネス2019年1月28日号 56~59ページより目次