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携帯事業に参入する楽天と業務提携を決めた。なぜ「敵に塩を送る」との指摘もある決断をしたのか。国内通信事業の飽和を受け、成長分野で他社との連携を進めてきたが、ゲームのルールは変わりつつある。新たな競合関係を勝ち抜くために、従来とは次元の違う提携戦略が必要になっている。

多様な業界に手を伸ばしてきた
●KDDIが過去5年間で実施した企業買収や業務提携
(写真=栗原 克己)

「うちが手をこまねいていたらいずれ、NTTだけが通信インフラを提供する時代に戻ってしまう。阻止しなければならない」

 2018年11月1日午前、東京・飯田橋のKDDI本社。取締役会の席で居並ぶ経営幹部にKDDIの高橋誠社長はこう宣言した。同日午後3時。決算説明会で発表したのは、国内携帯電話事業に新規参入する楽天との業務提携だ。

 NTTドコモやKDDI、ソフトバンクに次ぐ「第4」の携帯電話会社として19年10月からサービスを始める楽天。26年3月までに6000億円近くの資金を投じて通信インフラを完備する計画だが、単独で大手並みの利用エリアや通信品質を確保するのは容易ではない。当面は、全国に通信インフラを張り巡らせている携帯大手から力を借りる必要があった。

 そんな楽天に手を差し伸べたのがKDDIだ。楽天の携帯電話利用者がKDDIのネットワークを通じて音声通話やデータ通信をする「ローミング(相互乗り入れ)」と呼ばれる契約を両社は締結。これによって楽天は、需要が集中する東京・名古屋・大阪の3大都市圏のインフラ整備に経営資源を集中させながら、最初から全国でサービスを展開できるようになる。

新規参入する楽天に通信インフラを貸し出す
●KDDIと楽天の提携内容
(写真=左:共同通信、右:時事)

 一方のKDDIは、自社のネットワークを貸し出すことで、楽天から使用料を定期的に得る。「既にある設備の空きを貸すので、新規投資は必要ない。放っておいたらドコモが貸し出していただろう。それならウチがやったほうがはるかにマシだ」(高橋社長)。

 KDDIの高橋社長と楽天の三木谷浩史会長兼社長の「トップ同士が意気投合して実現した」(楽天幹部)という両社のタッグ。お互いにメリットがあるように見えるが、通信業界に詳しいアナリストはこう指摘する。

 「全国ネットワーク構築が最大の課題である楽天にとっては非常にありがたい話。一方、安定収益を確保してきたKDDIが、価格競争を仕掛ける側にわざわざ塩を送る見返りがどこまであるのか」

 KDDIが提携を決めた背景には市場飽和で本業だけでは大きな成長が期待できない通信業界の焦燥感がある。

 KDDIもその例に漏れない。19年3月期、主力の「モバイル通信料収入」は1兆7590億円と前期比2%減となる見込み。実入りの大きい「au」ブランドの携帯電話契約数が減少しているのが大きな理由だ。営業利益は1兆円規模になったが、定期的に政府からの携帯料金値下げを求められるなど、将来の収益基盤は盤石とは言い難い。

件数は伸びるが収益力は鈍化
●国内携帯電話の契約件数

 そのため、「非」通信事業の強化に躍起となっている。通信で稼ぐのではなく、その上にどのようなサービスを取りそろえるか。KDDIが目をつけたのは楽天が持つ通信以外のインフラだ。

 その一つが、楽天独自の物流網。KDDIが傘下に抱えるインターネット通販サイト「ワウマ」でも使えるようにして、EC(電子商取引)事業を強化したい考えだ。

 日本のネット通販市場を開拓した楽天は今、全国の消費地に物流センターを立ち上げている。ネット通販サイト「楽天市場」の出店者の在庫をここに集約、自社便で顧客のもとまで配達する体制を整えている。顧客が荷物の受取時間を2時間単位で選べるといったサービスが導入されている。

日経ビジネス2019年1月28日号 56~59ページより目次