全1309文字

過去の自分を断ち切る そんな能楽師の初心が能の永続を可能にした

(写真=村田 和聡)

 室町時代に観阿弥・世阿弥の父子が芸能として確立して以来、能は650年の長きにわたって発展を続けています。よく「能は退屈」という声を聞きますが、ただ眠くなるだけの芸能が650年も続くはずはありません。歴史の風雪を乗り越えて生き続けているのは、能の中に永続を可能にする仕組みが埋め込まれているからです。

 その一つは、世阿弥が残した「初心」という言葉に表れています。

 「初心忘れるべからず」は「始めた時の初々しい気持ちを忘れないように」という意味で理解されます。ただ、世阿弥は「折あるごとに古い自己を断ち切り、新たな自己として生まれ変わらなければならない」という意味で「初心」を用いました。「初心忘れるべからず」とは、「恐れず変化し続けなさい」ということです。

 でも、自ら進んで過去の自分を断ち切るなんて、なかなかできることではありません。だからこそ、世阿弥は能楽師が初心と向き合う仕組みを作った。それが「披(ひら)き」です。