AI時代に重要なのは知識を覚えることより自分で考え失敗すること

(写真=栗原 克己)
(写真=栗原 克己)

 私が『思考の整理学』を書いてから36年になります。ずいぶん時間がたちましたが、東京大学や京都大学の生協で書籍販売ランキングが毎年上位となるなど、ロングセラーとして読み続けられています。私が書いたのは、すべて自分で考えてきたことです。人のまねをしていないから、ずっと読まれているのだと思います。

 そして、この本で私が伝えたかったのはまさに自分の頭で考える大切さです。学校での教育は、これまで主に知識を身につけることだとされてきました。その一方で、学校では考えることについてあまり教えてきませんでした。結果として、小学校から大学まで学び続けても、多くの人は「考えたことがほとんどない」のです。

 身につけた知識は、もちろんさまざまな点で参考にはなります。だからといって、いつまでも覚えておく必要はありません。むしろどんどん忘れていいと私は考えています。忘れることが心配ならば、記録して必要に応じて見直せばいいのです。

 もっと言えば、知識はどんどん忘れてしまって構いません。

 いくら忘れようとしても、その人の深部の興味や関心とつながっていることは忘れません。忘れてもよいと思いながら忘れられなかった知見によって、一人ひとりの個性は形成され、そこから新しい思考やひらめきが生まれます。こうして考えるのでなければ、真に創造的なことはできません。その意味で思考の整理とは「いかにうまく忘れるか」だといえます。