多くの企業が事業化に苦労しているオンラインの心理カウンセリングで黒字化を達成した。留学した米国の高校で受けたいじめを原体験に、幸福が連鎖する社会の実現を目指す。

ネットで心理療法
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「心理カウンセリングをもっと身近なサービスにしたい」と言う櫻本真理社長。オンライン化がその鍵を握るとみる

 櫻本真理氏は人々の幸福が連鎖する社会の実現を目指している。「優しくされた人は、ほかの人にも優しくなれる」。そんな信念を抱いて、オンラインで心理カウンセリング・サービスを提供するcotree(コトリー)を経営している。利用者を十分に集められなかったり、短命に終わったりした競合サービスが多い中、創業から6年目で黒字化を達成し、事業を順調に拡大している。

 しかし10年以上前、櫻本氏は「幸福の連鎖」とは対極の世界に身を置いていた。20代だった当時の勤務先は外資系証券会社。「お金という限られたリソースの奪い合いを繰り広げていた。誰かが(金融取引で)勝てば、誰かが負けるのが必然だった」と振り返る。

 自分の幸福が他人の不幸につながる仕事から、幸福の連鎖を手助けする心理カウンセリングへ。櫻本氏はいかにして生き方を転換したのだろうか。

いじめっ子の心理にも興味

 櫻本氏は広島で3人兄弟の2番目として生まれた。父は若くして他界し、母の女手一つで育てられた。母は子どもたちの自由意思を尊重するタイプで、櫻本氏が中学生の時に米国へ1カ月の短期留学を許してくれた。そこで実感した世界の広さをもう一度味わいたくて、高校で米イリノイ州にある学校に1年間留学した。

 ただ2度目の留学は楽しいことばかりではなかった。一部の同級生から日本語なまりの英語をからかわれたり、日本を象徴するブランドとして「トヨタ、トヨタ」と連呼されたりと、見下された。

 いじめを受けるのは初めてで、落ち込んだ。同時に、いじめられている時の自分の心情や、いじめっ子の心理に興味が湧き、高校に設けられていた心理学の授業に引きつけられた。

 京都大学に進学すると、進化心理学に基づく行動経済学に熱中した。卒業後はモルガン・スタンレー証券(当時)に短期間勤めた後、ゴールドマン・サックス証券に転職。証券アナリストとして、市場参加者の心理面から株価の妥当性を分析した。

 転機は2008年に訪れる。リーマン・ショックの影響で会社の業績が悪化し、リストラの一環で同僚や上司が次々と退職。社員をコストとして扱う合理化策に優しさはなかった。櫻本氏は会社の姿勢に疑問を抱き、それまで激務でありながら楽しさが勝っていた仕事が苦痛になった。ついには睡眠障害を発症して、心療内科に通うことになる。

 そこで受けた治療がコトリー設立のきっかけとなった。担当医は手短に問診を済ませて、薬を処方するだけ。対症療法にとどまり、根本的な問題解決につながっていない。「臨床心理士など心の専門家とじっくり対話しながら自分の内面と向き合えるカウンセリングの必要性を痛感した」

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