交通系ICカードを使わず、Visaのクレジットカードなどで電車に乗降できるシステムを開発。低コストを武器に、キャッシュレス化の流れに取り残された地方の交通事業者の開拓を進める。

事業を大転換
<span class="fontSizeL">事業を大転換</span>
決済サーバーの販売から、決済のクラウドサービスの提供に転換。地方の事業者が導入しやすくし、収入の安定化を目指す(写真=古立 康三)

 2021年4月、難波駅や関西空港駅など南海電鉄の16の駅に、クレジットカード「Visa」のロゴが貼られた自動改札機が設置された。Suicaなどの交通系ICカードではなく、非接触決済対応のVisaカードをタッチ。運賃は後日請求される。大手私鉄で初の導入だ。

 乗降時のカードの認証に加え、運賃も計算する技術を開発、クラウドサービス「Q-move」として提供するのがQUADRAC(東京・港)だ。09年に、ソニーで非接触ICカード技術「FeliCa(フェリカ)」の開発リーダーを務めた日下部進氏が設立。現在は同じくソニーでフェリカの開発に携わった高田昌幸氏が社長を務める。

 フェリカはJR東日本のSuicaや楽天Edy、おサイフケータイなど、国内の主要な電子マネーが採用。わずか0.2秒で決済が完了するなど、技術の水準は高いが、コストが高く、国際的な規格とはならなかった。実用化から20年になるが地方の鉄道・バスへの導入も進んでいない。しかしQ-moveは低コストで地方の公共交通のキャッシュレス化を実現できる。20年の提供開始以降、京都府・兵庫県を走る京都丹後鉄道など3つの地方鉄道・バス会社が本格導入。冒頭の南海電鉄に加え、福岡市地下鉄でも実証実験が始まった。

 低コストが可能なのは、カードの認証や運賃の計算をクラウド上のサーバーで集中処理するからだ。フェリカが実用化された00年当時は通信環境が整っておらず、0.2秒という短時間で決済するには、ICカードと改札機の間の通信だけで処理を完結させるしかなかった。そのためICカードにチャージ残高や定期券情報を記録するチップを搭載し、改札機の1台1台にカード認証や運賃計算のプログラムを組み込んだ。今は通信速度が上がり、改札機で処理する必要性は薄れた。

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