世界最軽量級の折り畳み傘を開発し、クラウドファンディングで話題に。とがった商品の企画で技術力をアピールし、OEM供給の商談をものにしている。

独創的な商品を開発
<span class="fontSizeL">独創的な商品を開発</span>
デザインが重視されがちな傘業界で、軽量化や耐久性など機能性が売りの商品を企画し、技術力で取引先を開拓している(写真=高木 茂樹)

 「うわ、軽い」。手に取ると思わずこう声を上げてしまう折り畳み傘がある。重さは袋入りのスナック菓子とほぼ同じの、わずか67g。それでいて広げると直径は83cmと十分で、風速が毎秒15mの強風でも折れない丈夫さも持つ。

(写真=高木 茂樹)
(写真=高木 茂樹)

 開発したのは傘のスタートアップ企業、アンベル(名古屋市中区)。創業した2016年に重さ79gの折り畳み傘を開発し、18年には72gに改良した。そして20年には世界最軽量級の67gに到達し、クラウドファンディングサイトの「Makuake(マクアケ)」で目標の30万円を大きく上回る436万円を集めた。

 アンベルの自社サイトでは、自動開閉折り畳み傘としては世界最軽量級となる傘や、ほぼ100%遮光する折り畳み傘など、機能性を前面に打ち出した商品をいくつも販売している。主力とする事業は大手アパレルやセレクトショップ、雑貨チェーン向けOEM(相手先ブランドによる生産)商品の企画・輸入。しかし独創的な機能が評価されて、自社販売が年々拡大。創業以来、売上高は順調に伸び、「20年はOEMと自社ブランドの販売比率が半々になった」と辻野義宏社長は話す。

勤務先の破産で人生が一変

 アンベルは創業からまだ5年目だが、辻野氏は傘の老舗問屋で30年近いキャリアを積んできた人物。ただし、自身が起業するなど考えたこともなく、アンベルを立ち上げたのには「やむにやまれない事情があった」と振り返る。

 1990年代に傘業界に足を踏み入れた辻野氏は当初、大手量販店向けの営業を担当していた。当時はプライベートブランド(PB)商品がブームで、既存の商品を売り込むだけでは苦戦。先方の要望に応じたPBを企画する必要性を上司に訴えたところ、自ら企画や仕入れを担当することになった。傘の技術についての知識はほとんどなかったが、「趣味の魚釣りでは道具に凝るタイプだったこともあり、傘に使われる素材の特徴などを調べるのが楽しくなった」(辻野氏)。中国の委託工場に足しげく通ううちに、メーカーにも「そんなに素材のことを知っている人はいない」と一目置かれるようになったという。撥水(はっすい)持続加工の生地や耐風性能を持つ骨組みを共同開発するなど、ヒット商品を次々と送り出していった。

 順調に見えたが、2014年に転機が訪れる。勤めていた会社が身売りされたのだ。為替デリバティブの損失で債務超過に陥ったためだった。

 その2年後、辻野氏の運命をさらに変える出来事が起きる。身売り先の親会社が突然破産。何とそこもまた粉飾決算を行っていた。16年3月のことだ。

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