ナノファイバーの製造装置を開発、油吸着材を製品化し、災害現場にも提供する。難しいとされた夢の素材の量産化を実現し、国内外で多様な用途への展開を目指す。

量産化を実現
<span class="fontSizeL">量産化を実現</span>
自重の50倍の油を吸収するナノファイバーの量産化を実現。油流出事故の災害現場で役立ったことで注目を集めた(写真=竹井 俊晴)

 ふわふわした手触りの白い繊維が水に浮かんだ油だけをみるみる吸収していく──。約30cm四方、20gほどの大きさで、約1リットルもの油を吸うのが「マジックファイバー」と名付けられたポリマー製の油吸着材。直径1~1000ナノ(ナノは10億分の1)メートルという、超極細繊維「ナノファイバー」の技術を生かした製品だ。

 「軽い製品だが、水に浮かぶ油を効率的に吸着できる。一度、吸着した油は垂れてこないため、ゴミとして処分もしやすい」。マジックファイバーの開発・製造を手掛けるエム・テックス(東京・大田)の曽田浩義社長は、製品の特性をこう話す。

佐賀県の油流出事故で活用

 この特性が生かされたのが、2019年8月、豪雨により佐賀県大町町の鉄工所から、約5万リットルもの油が流出した事故だ。同社が寄付したマジックファイバーは、川に浮かんだ油の回収や住宅清掃に活躍した。

 エム・テックスは、当初、3000枚の無償提供を予定していたが、自衛隊や自治体から追加の要請が相次ぎ、最終的に19万枚、金額にして1億円以上を寄付した。メディアに取り上げられて知名度も上がり、「我々にしかない技術ということで、国内外から引き合いが来るようになった」と曽田氏は語る。

 さらに20年7月、モーリシャス沖で長鋪汽船(岡山県)が所有する大型貨物船が座礁して大量の燃料油が流出した事故に際しても、提供を計画。市民らに1枚550円で購入してもらうなどし、計50万枚以上を現地NGO(非政府組織)に送る予定だ。

 細くて軽いナノファイバーは、画期的素材とされ、世界的に注目されてきた。ポリマー以外にも、植物由来のセルロース、カーボン(炭素)などを原料に製造や用途の研究が進み、フィルターや電池のほか、エレクトロニクス、医療、食品分野などに活用しようと、多くの企業が研究、生産に取り組む。だがネックがあった。「大量生産できる技術がなく、事業化が難しいとされてきた」(曽田氏)のだ。

 その量産化を可能にし、低価格化を実現する製造装置や製造方法の特許技術を開発したのがエム・テックスだ。先行する米国や欧州メーカーの装置に比べ「1時間当たりで30〜60倍の量の生産を可能にした」(曽田氏)という。

 曽田氏自身はナノファイバーに詳しい研究者や開発者ではない。だが「素人集団だからこそ、固定観念なく製造方法を見つけられた」(曽田氏)と語る。

 曽田氏は大学で情報通信を専攻。卒業後、1992年に大手電機系メーカーに就職し、ITエンジニアとして通信分野の事業に携わった。その後、2011年から民間放送局を立ち上げるため、放送システム開発会社で働いていた。

 ナノファイバーとは無縁の生活を送っていたが、知人を介して、「たまたま、営業を手伝ってほしいと紹介された」ことで関わりを持った。

 様々な分野に応用できるナノファイバーに可能性を感じたものの、量産化できないという課題を抱えていることを知った。そこで、前職の同僚らに声を掛けて15年に5人で設立したのがエム・テックスだ。

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