橋梁下や屋内など、非GPS環境下でも自ら考えて飛ぶ産業用ドローンを提供。インフラ点検や配送業務など危険や人手不足に直面する業務の効率化、無人化を目指す。

橋梁の下を橋梁と一定の距離を保ったまま自動でドローンが飛び、搭載されたカメラで画像を取得していく。ひび割れなどの損傷を検出するための作業風景だ。
通常、ドローンを飛ばす際は人がコントローラーで操縦するが、自律飛行の場合は、事前のプログラミングを基にGPS(全地球測位システム)の情報を使って自らの位置を把握する。このため信号の入りにくい橋梁下などの構造物付近では飛行が難しかった。悪条件の場所でもドローンを飛ばせる技術を持つのが、2013年創業の自律制御システム研究所(ACSL)。カメラの画像を駆使し、ドローンが自らの位置を推定して飛行する仕組みを開発してきた。
インフラ点検や災害対応で活用
同社は「インフラ点検」や「物流・郵便」の産業分野のほか、「防災・災害対応」市場でのドローン活用に特に力を入れる。17年に発生した九州北部豪雨の情報収集に活用されたほか、日本郵便が18年から福島県で始めた補助者なしの目視外飛行となる荷物配送でも機材が使われた。
機体の販売台数は18年3月期の40台から19年3月期に106台に増加。20年3月期も220台の販売を見込む。
ACSLの技術基盤を作り上げたのは千葉大学名誉教授で、米航空宇宙局(NASA)出身の野波健蔵氏。約20年間にわたり研究を重ね、自律制御ドローンを開発、創業した。そこに16年に加わったのが現在、社長を務める太田裕朗氏だ。太田氏の前職はマッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタント。経営を引っ張るプロかと思いきや、「もともとは物理学者」という経歴を持つ。
京都大学でプラズマ物理を研究した後、青色LED関係の分野を手掛けたことなどをきっかけに、米カリフォルニア大学に渡った。大学で研究員を務めたり、ノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏の会社を手伝ったりした。執筆した論文は100本ほどに上るというが「(研究者であり、経営者でもある)中村さんの会社を手伝っていると、学者だけを続ける気がなくなってしまった」と笑う。「学者とビジネス、両方に関われる仕事をしたい」と思っていたなかで、マッキンゼー時代の同期からACSLを紹介された。「野波さんがいなければ日本のドローン産業は立ち上がっていない。そして制御理論を理解できる自分は経営と学問をつなぐ役割を果たせる」とACSLでの挑戦を決めた。
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