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家電やスマートフォンなど、電子機器で必ず使われるプリント基板分野に参入。業界の常識にとらわれない安全で低コストな生産技術で成長を続ける。

フレキシブル基板
回路を印刷して作る新方式のプリント基板。加熱しないので、柔らかいフィルム上にも電子回路を作りやすい。生産コストも割安だ
マンションを研究室代わりにして手探りの技術開発をした創業期

 東京駅から徒歩10分あまり、オフィスビルが立ち並ぶ街の一角に小さな電子部品の製造工場がある。2014年に創業したエレファンテックの第1工場だ。

 同社は、電子部品を取り付ける「プリント基板」を作っている。電子機器を分解すると出てくる、緑色の板のような部品だ。プリント基板製造には、危険な薬品を使ったり大型の加工装置を使ったりするため、通常は工場を街中に作るのは難しい。が、エレファンテックは文字通り“印刷”して基板を作る画期的な製法を開発。従来よりもシンプルで安全な製造方法のため、街中でも工場の認可が下りた。

 清水信哉社長は「従来品の上位互換といえる基板で、将来はすべての電子デバイスで使われる可能性がある」と自信を見せる。

環境負荷が少ない製造技術

 従来のプリント基板は、印刷されたかのように電子回路が基板上に描かれているものの、実際は薄く張り合わせた銅板を薬品などで削り、回路状に加工する。危険な薬品を使い、重金属を含む廃棄物が出るため、環境問題への配慮や規制によって工場の立地は限られる。

 エレファンテックでは、この回路形成に特殊な金属インクを使う。専用のプリンターで回路を印刷し、化学処理をすると、印刷したインクの上だけに銅が付着するように成長し、電気回路ができる。加熱せずに基板が作れるため、熱に弱いフィルム上にも回路を作ることができ、曲げられる「フレキシブルな基板」が作りやすい。

 製造の手順を簡素化しただけでなく、廃棄物などを従来の1割以下に抑えた。コストも3~4割安いとあって、電子デバイスを作る企業からの注文が集まっている。1件10万円から高いもので100万円超の生産受注を、19年3月期には450件こなした。20年3月期には約1000件を見込む。

 事業拡大中の同社だが、最初から順調だったわけではない。創業から約2年間は暗中模索の状態が続いていた。

 マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤めていた清水社長が創業に踏み切ったのは、印刷型の基板製造技術に出合ったからだ。母校である東京大学で研究が進んでおり、既に回路の作製に成功していた。事業化の可能性が高いと感じ、起業を考えていたこともあって、共同創業者の杉本雅明氏と共に会社(当時の社名はAgIC)を立ち上げた。

日経ビジネス2019年5月20日号 66~67ページより目次