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魚介類を急速冷凍できる食塩水氷「ハイブリッドアイス」を開発した。従来よりも早く安く凍らせる技術に、海外からもラブコールが相次ぐ。

鮮度を保って冷凍
生のカキをハイブリッドアイスの中に入れると、わずか4分ほどでカチコチに凍ってしまう。製氷時は薄い板状の破片となって落ちてくる。(写真=2点:橋本 正弘)

 勢いよく飛び跳ねるブリをシャーベット状の氷の中に入れることわずか20秒余り。取り出したブリは見事にカチコチに凍っている。マイナス21.3度の高濃度塩水氷「ハイブリッドアイス」は魚介の急速冷凍を可能にした。ほぼ瞬間冷凍に近いともいえる。従来の冷凍技術と比べ、熱を奪うスピードは20倍以上だという。

 急速冷凍すると魚介類の細胞が壊れないため、うまみも逃げない。広島県でカキを出荷するケンスイの川崎健社長はハイブリッドアイスの冷凍を「その時点で時間を止める。生きたものの味をそのまま守れる。カキは細胞が柔らかく崩れやすいが、ハイブリッドアイスはとにかく凍らせるスピードが早いので、香りもうまみも消えない」と語る。

 ハイブリッドアイスは、不凍液とも言われていた23.5%の高濃度塩水をドラム型の製氷機でマイナス65度の物質にぶつけて生み出す新しい冷凍技術だ。しかも使うのは塩と水と電気だけ。空冷装置やアルコールを冷媒に使う従来の冷凍技術より製造コストが格段に安く済む。

 このハイブリッドアイスを生み出したのがブランテックインターナショナル。ブランテックはフランス語で白いを意味する「ブラン」と技術の「テック」を合わせた造語だ。

マイナス1度の氷に着目

 廣兼美雄社長の「白い技術」との戦いは実は長きにわたる。スキー板などを製造していた大手メーカーを退職し、31歳で起業。それ以来30年以上にわたって雪や氷といった「白い」ものと付き合ってきた。

 ブランテックの前はスキー場の設計や造設、そして人工造雪機の製造販売を手掛け雪質の研究を続けてきていた。「スキーの本場、フランスの企業と合弁を設立し、その道では世界有数の企業にまでなれた」(廣兼社長)。

 一時はスキー場の運営にも乗り出したが、スキー人口の減少により、スキー産業が衰退し、撤退を決めた。転換点を模索する中、ふと目にしたのが、テレビ番組で魚介類の搬送に塩分濃度1%でマイナス1度の氷スラリー(シャーベット状)を使っている映像だった。

 「それまで塩分を含んでいない水を氷と雪に変える研究ばかりしていた。マイナス1度なのにスラリー状なのは不思議で、氷の作り方にもいろいろあると感じ、塩水と、それまで研究し続けてきた技術の掛け合わせに取り組み始めた」(廣兼社長)。氷の状態や、塩分濃度の調整など、数年に及ぶ試行錯誤の結果、「ハイブリッドアイス」を作り出す製氷機の開発に成功。食品業界をはじめ、幅広いマーケットに向けて販売を始めるため、「ブランテックインターナショナル」を設立した。

日経ビジネス2019年5月13日号 66~67ページより目次