二酸化炭素(CO2)の実質的な排出量が少ない「持続可能な航空燃料(SAF)」の国産化が動き出した。日揮ホールディングスやコスモ石油は、廃食油を原料にSAFをつくる国内初の大規模プラント建設に着手した。“空の脱炭素”が急務となる中、国内航空会社の安定的なSAF調達につなげる狙いだが、原料の確保は難題だ。

日揮HDやコスモ石油が建設するSAFプラントのイメージ(左)と、大阪府堺市の建設予定地(右、日揮HD提供)
日揮HDやコスモ石油が建設するSAFプラントのイメージ(左)と、大阪府堺市の建設予定地(右、日揮HD提供)
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 大阪のシンボル、大阪城から南に車を走らせること約30分。大阪湾に面したコスモ石油の堺製油所(大阪府堺市)で5月16日、SAFを製造する大規模プラントの起工式が行われた。日揮ホールディングス(HD)とコスモ、廃油回収などを手掛けるレボインターナショナル(京都市)の3社が設立した共同出資会社が製造を担い、コスモを通じて販売する。

 早ければ2024年度の後半に稼働を始め、年間の製造能力は約3万キロリットル。全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)両グループの燃料使用量の合計(19年度で約870万キロリットル)の約0.3%に相当する。

 原料は飲食店などで排出される廃食油だ。従来の化石燃料由来の航空燃料は燃焼した分だけ大気中のCO2が増えるが、食用油であれば原料となる植物が光合成でCO2を吸収している。この分、実質的なCO2排出量を減らせる。

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まず燃料の10%をSAFに

 航空業界は世界のCO2排出の2.5%程度を占めるといわれる。欧州では環境負荷が大きいとして飛行機の利用を避ける「飛び恥」という風潮が生まれるなど、消費者や投資家による脱炭素への圧力は強まっている。ANAやJALも50年にCO2の排出を実質ゼロにする方針。省燃費の航空機の導入などを進めている。

 ただ、大型の飛行機を電動化したり、燃料に水素を活用したりするまでには長い時間がかかる見込みで、当面は「SAFしか脱炭素の主要な解決策がない」(日揮HDの西村勇毅・SAF事業プログラムマネージャー)状況だという。

 SAFの使用は今後、業界の標準となっていく公算が大きい。欧州連合(EU)は域内で航空燃料を供給する事業者に対し、25年までに供給量の2%、50年までに70%をSAFとするよう義務付ける方向だ。世界的にこうした規制の動きが広がれば、SAFを搭載できない飛行機は運航できなくなる恐れもある。ANAとJALはまず、30年に使用する燃料の少なくとも10%をSAFに置き換える方針を示している。

 2社の燃料使用量は19年度時点(約870万キロリットル)から今後、事業拡大に伴ってさらに増える見通し。両社が21年にまとめた共同リポートでは、50年に日本で必要なSAFは最大で約2300万キロリットルに上ると試算している。