外食業界では配膳ロボットの導入が始まった。その自動化の波は厨房内の作業に広がりつつある。アーム式のロボットが人間と同じように作業するが、動きの微調整は難しく、各社は試行錯誤を繰り返す。「見せる調理作業」とどう組み合わせるか、コストをどう回収するか、が今後の課題になるだろう。
食事の注文を入力すると2つのロボットアームが動き出した。「キュイン、キュイン」という機械音を立てながら、左側のアームがご飯を電子レンジで温め、隣のアームがレトルトパウチを湯煎し始める。移動してきた配膳ロボットにトレーが載り、すべての料理がそろうと、別のロボットがテーブルに運んでいった──。
近未来的なレストラン。その正体は、川崎重工業などが昨年4月20日に開設した「Future Lab HANEDA(フューチャー・ラボ・ハネダ)」である。ロボット関連の企業が共同してオープンイノベーションを目指す開発拠点だ。配膳ロボットは他社製品だが、調理するアーム3台と2本の腕で料理を運ぶ自走式ロボット「Nyokkey(ニョッキー)」は川崎重工の製品となっている。
アームは川崎重工が2017年に発売した汎用の製品である。「ハンド」や「ツール」と呼ばれる先端部分を付け替えることで、様々な用途に使える。今回の施設をオープンするに当たり、調理作業向けにハンド部分は新たに開発した。
工場より導入しにくい理由
川崎重工が飲食業界への進出を考えているわけではない。この施設は、病院の見回りや外食などサービス業界で使われることを想定してニョッキーを開発、改良するための実験場となっている。調理から配膳まですべてを自動化するケースをイメージし、ラボは飲食店とほとんど変わらない今のレイアウトになっている。
工場などでの利用実績があっても、飲食分野への応用は簡単ではない。まずは製造現場と環境が異なる。工場では、レイアウトや機械が固定され、ロボットの利用を前提に設計されていることが多く、比較的導入しやすい環境が整っている。しかし、飲食店の厨房を前提とすれば電子レンジや湯煎の機材は人間が扱うものと同じだ。
「調理に携わる人たちは無意識にミリ単位のずれを調整しながら作業している。その機能がないロボットでは、作業が滞る恐れがある」と川崎重工のロボットディビジョングローバル戦略部営業企画課、合田一喜基幹職は話す。
レトルトパウチもロボットには扱いにくい。湯煎すると、沸騰したお湯の中でパウチが動いてしまうからだ。アームは通常、特定の位置でものをピックアップするようプログラミングされるので、人間のように臨機応変に位置を調整するのは苦手だ。さらに、パウチはメーカーやブランドによって、素材やサイズ、厚みが異なる。熱でパウチの圧着部分がゆがむこともある。決まった場所をつかんでカッターで切るだけでも一筋縄ではいかない。
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