うまく活用できれば二酸化炭素(CO2)を減らせるエネルギー源のアンモニア。石炭や天然ガスと混ぜて燃やす混焼技術が進歩し、火力発電の低炭素化に道を開きつつある。アンモニアだけを使う「専焼」の技術も実現、新燃料としての存在感が高まっている。
政府はエネルギー政策の土台となる「第6次エネルギー基本計画」を2021年に公表し、30年度の電源構成として初めてアンモニアを明記した。これによってアンモニアは次世代のエネルギーとしてにわかに注目を浴び始めた。
肥料として使われたり、繊維や樹脂の副原料に利用されたりしてきたが、発電分野で光が当たっている理由はアンモニア(NH3)が炭素(C)を含んでおらず、燃やしてもCO2を出さないためだ。既存の火力発電の設備を使えることもあって、石炭や天然ガスと混ぜて燃やす技術の開発が進んでいる。
政府は、アンモニアが発電の燃料としてこれから利用されていくことを踏まえて、肥料なども含むアンモニアの需要が30年に19年比約3倍の300万トン、50年に同約30倍に上る3000万トンへ拡大すると試算している。

発電燃料として使う技術で先行する企業が、火力発電の設備などを開発しているIHIだ。アンモニアは着火しにくい難燃性の物質であることから、かつては同社においても、活用の道を開くことは難しいだろうと受け止められていた。燃焼速度も非常に遅く、メタンのわずか5分の1にすぎない。
IHI、難燃性の壁越える
さらに、燃やした時に生じる有害物質も懸念の一つだった。燃焼させると、光化学スモッグや酸性雨の原因となる窒素酸化物(NOx)が発生する。アンモニアそのものも、人体にとって有害であるため、燃え残りが外部に出ないような対策が必要だった。
燃えにくく、有害物質も発生するアンモニアが国のエネルギー計画に位置づけられるようになるきっかけは、IHIが参画した10年前のプロジェクトにあった。
IHIは13年度に文部科学省の先端的低炭素化技術開発に参加した。続いて14~18年度には、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラムに加わり、アンモニアの直接燃焼に取り組んだ。ブレークスルーはこの一連の取り組みの中で起きた。
「まずはやってみようと、通常のバーナーで燃やそうとしたが、安定して燃やすことさえできなかった」と、IHI技術開発本部の内田正宏主査は振り返る。しかし、最終的には、都市ガスと混焼させるプロジェクトに成功した。「アンモニアが水素に並ぶ次世代のエネルギー源だと国に認めてもらえた」(内田氏)
IHIはアンモニアの燃焼に、発電用のガスタービンに使われる「スワールバーナー」を利用した。スワールバーナーは、空気を旋回させ、高温の燃焼ガスを燃焼機器内で再循環させる。空気の流れを工夫することで、難燃性のアンモニアの燃焼に成功した。さらに、燃焼機器内のアンモニア濃度をコントロールすることによって、NOxを抑制できることを発見した。

IHIはこうした基本的な燃焼のメカニズムを、発電会社などと協力しながら実用化していく。東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資するJERAとともに、23年度から碧南火力発電所(愛知県碧南市)で、石炭火力の20%混焼の実証実験を始める。発電の規模は100万キロワットだ。
石炭は液化天然ガス(LNG)など他の燃料と比べCO2排出量が多い。その分、アンモニアとの混焼によってCO2を減らす効果も大きくなる。次の目標として、24年度までに混焼比率を50%以上へと高めるバーナーを開発する。50%を超えると、石炭火力のCO2排出量が天然ガスのタービンよりも小さくなるとされる。
Powered by リゾーム?