コンビニ、病院、保険。様々な現場でアバター(分身)を介して遠隔地から接客する技術が導入され始めた。労働人口が減少する日本で、高齢者やハンディキャップのある人の就労支援に役立つと期待が高まっている。既に、大手人材会社は「アバター人材」の育成にも力を入れ始めている。どのような研修をしているのだろうか。

(写真=右上:AVITA提供)
(写真=右上:AVITA提供)
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 2022年11月、ローソンはJR山手線大塚駅近くの住宅地に、実験店舗「グリーンローソン北大塚一丁目店」(東京・豊島)をオープンした。一見、通常のコンビニエンスストアだ。店内に足を踏み入れると「いらっしゃいませ」と元気な声が響く。ここで、すこし雰囲気が違うことに気づく。接客しているのが液晶パネル上に映るCG(コンピューターグラフィックス)のキャラクターなのだ。

 記者がお薦めの季節商品を尋ねると「『濃密カヌレ』はいかがでしょうか」と返答した。スイーツ売り場に向かうと、別のキャラクターが「先日テレビ番組でも紹介されたんです」と人気ぶりを紹介してくれた。セルフレジの使い方を案内してくれたキャラクターもいた。

 接客してくれたこのキャラクターたち、AI(人工知能)が演じているわけではない。実は、遠隔地で生活する人間がオペレーターとなり、インターネット回線を通じてリアルタイムで応対している「CGアバター(分身)」なのだ。

普段とは別の人格を演じる

 CGアバターを操る仕組みはこうだ。オペレーター側のパソコンに内蔵されたカメラが本人の表情や動作を読み取り、CGアバターに反映。マイクで拾う声もキャラクターに合わせて変えられる。女性が男性の声で接客することも可能だ。つまり、普段とはまったく別の人格に生まれ変わることができるのだ。

 店側の液晶パネルに映るのはCGアバターのみ。オペレーターは自分の素顔を見せることなく接客が可能だ。簡単な受け答えの動作はボタン操作で対応でき、体を動かすのが困難な状況の人にも配慮している。

 オペレーターと来店客のやり取りは、Zoom(ズーム)などのオンライン会議とさほど変わらず、来店客目線では違和感がない。

 オペレーターを務める20代の女性は「最近は“常連”のお客さんもいて雑談の話し相手になることもある。アバターなら緊張せずに話すことができる」と働きやすさを語る。

 ローソンが22年秋にアバターを公募したところ、約30人の募集枠に対して400人近くの申し込みがあった。想定時給はスキルに応じて1100~2000円。当初は東京・大阪・淡路島のオフィスで操作を始めたが、慣れた人には自宅から遠隔操作してもらう実験も始まっている。

 時差で昼夜が逆転している外国で操作すれば、現地のデイタイムに日本での夜勤対応が可能となる。同社がリモート接客の技術を実験的に取り入れた背景には、コンビニ業界の深刻な人手不足がある。

 経済産業省が18年、日本フランチャイズチェーン協会(JFA)に加盟するコンビニ8社の加盟店オーナー約3万1000人に行ったアンケートでは、従業員の状況について6割超が「不足している」と答えた。フランチャイズ契約更新についても半数以上が「更新したくない」「分からない」と回答。高齢化や体力的な限界、人手不足などを理由に挙げ、現場の疲弊感が浮き彫りとなった。