データをコンピューターによって解析し、新しい材料を生み出すマテリアルズ・インフォマティクス(MI)。10~20年間かかって当たり前だった材料開発を桁違いに高速化し、根底から変える技術だ。新たな材料開発のライバルを生み出しかねない一方、材料開発の知見を生かすチャンスでもある。
「タイヤにナノサイズのシリカ粒子を配合すると強度とグリップ性能は向上するが、同時に燃費性能が下がってしまう。それがなぜかは、よく分かっていなかった」(住友ゴム工業研究開発本部分析センターセンター長の岸本浩通氏)。原因が明らかになっていないこうした“経験則”のようなものが、タイヤのゴム材料開発ではいまだ多く存在するという。
そんな状況に一石を投じるのが、同社が導入した材料解析クラウドサービス「WAVEBASE」だ。
同サービスを利用すれば、計測で得たビッグデータを活用してゴムの変形に伴う分子構造などのミクロな変化を連続的に解析できる。これまで技術者が推測していた現象の確度を高めたり、気づいていなかった変化を捉えたりと、ゴムの挙動に関わる様々な現象の解明に役立つ。ひいては高性能タイヤの開発につなげるのが同社の狙いだ。
WAVEBASEは、材料の分析に使う赤外吸収分光法やX線回折法、走査型電子顕微鏡(SEM)などで得た膨大な量の計測データを自動解析して、任意の特徴量を抽出できる。例えば、材料組織の大量のSEM画像から配合物の平均粒径などが分かる。住友ゴム工業は、このサービスをゴム材料の研究開発用に「システムを最適化した」(同社)上で導入した。具体的には、ゴム材料中の分子構造や添加剤の配置が分かる極小角X線散乱測定に対応させた。
解析時間は100分の1に
住友ゴム工業でのWAVEBASEの活用は始まったばかりだが、同社は従来の解析プロセスと比較すると「試算では解析時間が100分の1以下になる」(岸本氏)とみている。活用先の一つが、現在、注力している耐摩耗性能の高いタイヤの開発だ。「電動化によってクルマが重くなっている。そのためタイヤには高い耐摩耗性能が求められるとみて開発を進めている」(同社研究開発本部分析センター主査の間下亮氏)。この開発で重要なのがゴムの破壊現象の解明。「ゴムを引っ張った時、戻ろうとする力と耐えようとする力が発生する。これらの力がどこから発生するのか明らかになれば破壊しにくい(耐摩耗性能が高い)ゴムが作れるはずだ」と岸本氏は意気込む。
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