新たな移動手段と期待される超小型の電気自動車(EV)の分野で、各社が小型・軽量化技術を競っている。日本では2020年の規制緩和で新規格が創設されて車種が増えつつあるが、本格的な市場開拓はこれからだ。個人需要の掘り起こしに向けてコストや利便性で軽自動車をしのぐ新たな価値を提供できるか課題が残る。
1月中旬、千葉市で開催された自動車の展示会「東京オートサロン」で、前後対称の近未来的な外観の小型車が注目を集めていた。スタートアップのKGモーターズ(広島県東広島市)が開発した1人乗りの超小型電気自動車(EV)だ。
LNG(液化天然ガス)火力発電によってつくられた電気で走る場合、ガソリンで走るコンパクトカーと比べてCO2(二酸化炭素)排出量を10分の1に抑えられるという。利用者にとって最大の利点が保有コストの安さだ。車両規格が「第一種原動機付自転車(ミニカー)」になるため、税金や保険などが原付きバイクと同程度ですむ。家庭用コンセントで5時間充電すれば100km走れる。
小型・軽量化へ工夫凝らす
KGモーターズは、車のアフターサービス会社を経営していた楠一成CEO(最高経営責任者)が2022年7月に創業した。国土交通省によると、日本における車の利用実態は7割が1人での利用で、かつ10km以下の移動にとどまる。
楠氏は「道が狭く入り組んでいる日本には1人乗りモビリティー(移動手段)が適している」と考え、18年ごろから構想を温めてきた。名古屋大学でパワーエレクトロニクスを専門とする山本真義教授を技術顧問に迎え、デザインや設計を手掛ける。
超小型EVでは、モーターの出力制限がある中で、いかに小型・軽量化して個性を出せるかが肝となる。KGモーターズでは、部品点数を通常のEVの3分の2から半分程度に抑え、組み立て工程を簡略化した。鉄が通常使われるボディーには、衝撃を吸収しやすい樹脂素材を使うことで軽量化。車体の前後のデザインをあえて対称にすることで、金型や製造にかかる費用も抑えた。窓は手動で開け閉めするなど、割り切った設計で室内空間を確保した。
楠氏は「体が露出した状態で走る原付きバイクと比べたら安全性は高い」と強調する。市販する際には1台100万円以下で売ることを目指す。購入補助金の対象になれば地域によっては60万円台になる見通しだ。
大手車メーカーのものづくりとは一線を画すため、ユーザーの声を柔軟に取り入れながら開発期間を短縮する。制作過程を動画サイト「ユーチューブ」で積極的に発信。オートサロンで発表した試作車の実証実験を通じてユーザーの意見を集め、25年ごろからの量産を想定する。
超小型EVは簡略化した構造やバッテリー価格の低下もあり、既存の自動車メーカーでなくても開発を試みやすい。KGモーターズより一足先に量産を始めた新興メーカーが、FOMM(フォム、横浜市)だ。創業者で社長の鶴巻日出夫氏は、トヨタ自動車の子会社、トヨタ車体で超小型EV「コムス」の開発に携わった経験を持つ。
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