アプリケーションの迅速な改善を可能にする「マイクロサービスアーキテクチャー」。ネット企業での利用が中心だったが、今や一般企業にも広まりつつある。原動力は、システムを俊敏に変更したい、保守性を高めたいニーズの高まりだ。

 マイクロサービスアーキテクチャーとは、各種機能を比較的小さなサービスとして開発し、負担の軽い接続方法であるAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)経由などで、これらサービスを結びつきが緩やかな疎結合によって連携させることで、一連の処理を実現することを指す。

 従来に比べてサービスの単位が小さいので、変更に当たって影響範囲の調査や改変、テストの対象範囲を局所化できる強みがある。その分1日に何度もサービスを変更してデプロイ(配置)するような開発スピードが手に入る。

 クラウドなどサービスを支えるインフラが整い、マイクロサービスに取り組みやすくなった。従来EC(電子商取引)サイトやネット企業などでの利用が中心だったマイクロサービスは一般企業へ広がってきた。

疎結合のあんばいが大切

 三越伊勢丹はここ数年、デジタルサービスへの取り組みを加速。2019年8月に始めた靴の個別フィッティングサービス「YourFIT365」を皮切りに、さまざまな新サービスをクラウドで開発し提供してきた。

 新サービスに共通するのが、機能改善や顧客要望による頻繁な変更要求で、これに応えられる設計手法がマイクロサービスアーキテクチャーだ。三越伊勢丹のDX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクトに参画する、アイムデジタルラボ(東京・新宿)の鈴木雄介取締役はマイクロサービスの採用理由を「モノリス(一枚岩)なつくりでは一部の機能変更がシステム全体に影響する可能性がある」と説明する。一方、機能を疎結合で用いるマイクロサービスであれば、変更作業が迅速にできるのでその頻度を高めやすい。

 20年11月に始めた顧客サービス「三越伊勢丹リモートショッピング」は、顧客がスマートフォンの専用アプリを使い、三越伊勢丹の売り場にいる販売員とテキストチャットやビデオ通話によってコミュニケーションするサービスだ。予約系、リモート接客系、決済系などの機能に分けて実装し、それらをAPIなどで連携させる。

(画像:三越伊勢丹提供)
(画像:三越伊勢丹提供)
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 サービスを開始して以来、予約システムを追加したり、メンテナンスに合わせて小さな変更を行ったり、さまざまな変更要求に応えてきた。そのボリュームは「1年半でリリース回数は100回を超える」(鈴木取締役)。

 マイクロサービス活用の前提として鈴木取締役が挙げるのが、自動化技術などを駆使してシステムの開発と運用を一体で進めるDevOps(デブオプス)の推進だ。DevOps基盤として、米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)上に利用環境を整備。プログラミング技術を駆使して運用を自動化するIaC(インフラストラクチャー・アズ・コード)の推進により開発チームがインフラを変更できるようになり、マイクロサービスの利点を享受できたという。

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