IT(情報技術)や機械を活用する「スマート農業」。難所とされているのが収穫の分野だ。大手電機メーカーが苦戦する中、中小・新興企業が普及しやすいロボット開発を進めている。鍵は「シンプルな機構で価格を抑えつつ、高精度な収穫を両立させる」という設計思想だ。

 「日本の農業を持続させるため、何としても商用化にこぎ着けたい」

 アイナックシステム(福岡県久留米市)の稲員重典社長は、いちごの自動収穫機についてこう意気込む。これまで、特に柔らかい果物の自動収穫システムは大手電機メーカーでも本格的な販売品を出せていない。低コストで開発できないと1台1000万円程度の試算になり、園芸農家が気軽には買えないからだ。

 同社は工場のFA(ファクトリーオートメーション)機器の製造ベンチャーで、創業15年目。たった4人で収穫マシンを開発中だが、本当に農作業に変革を起こしそうな企業として、行政からも注目を集めている。

 2023年春の発売を目指しているこの機械は、「ロボつみ」と名付けられた。販売は1台200万円前後を予定し、大手メーカーの想定と比べかなりの低価格といえる。

「ロボつみ」の試作2号(左)、実売機(右)を製作中
「ロボつみ」の試作2号(左)、実売機(右)を製作中

AIでいちごを選別

 実際にロボで摘み取るのは、いちごの中でも特に扱いの難しい「あまおう」だ。福岡県の誇る高級品種で、とてもデリケートな表面を傷つけないよう、繊細な技術が求められる。

 工業の分野では、AI(人工知能)を使った画像処理が普及段階に入っている。農業でも応用するケースが増えつつある一方、いきなり最高度のスペックを求めて時間をかけるのでなく、まず迅速に開発してアップグレードしていくことが重要だ。

 いちごは、農場の中で収穫すべき個体と残すべきものを判別する必要がある。あまおうはブランド力を維持するため、商標登録しているJA全農ふくれん(福岡市)が出荷時の規格を細かく定めている。いつ収穫するかを大きく左右するのは着色基準で、やや薄い「六分」や「七分」の状態から真っ赤な「完着」まで分かれている。

 あまり赤くなってから取ると、流通段階でさらに熟していくため、店頭に並ぶ際には傷んで廃棄品が出てしまう。物流の日数を考えて判断する必要があり、アイナックシステムはまず色合いについて4段階に分け、AIに覚えさせることにした。

 提携したいちご農家の農場で、動画を撮影した。そこから、いちご1個ずつが写っている瞬間を切り取り、約3000枚の静止画像に分割。さらに1枚ずつを人の目で見て、いちごの色づき具合が4段階のどこに当てはまるか、振り分けていった。こうして画像をどう判断すれば正解なのかという「教師データ」をそろえた。素早く物体を検出するアルゴリズム(計算手法)である「YOLO」を使い、いちごの画像を瞬時に4クラスへと分類する手法を学習させた。

 この画像処理をどこで実施するかも、コストを左右する。18年に試作1号機をつくった際は、ロボから離れた場所に通信・演算用のパソコンを置いた。いちごの農場で複数台のロボが動き回るとき、そのパソコンと連携すればよいとの発想だった。ただ、これでは費用が余計にかかる。2号機からはロボ本体で回答を導き出すエッジ処理に変更した。

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