スタートアップのパワーエックス(東京・港)は、蓄電池を搭載して電気を海上輸送する「電気運搬船」を開発中だ。2050年の脱炭素化に向けて洋上風力発電の強化を目指す日本。沖合から需要地まで低コストで電気を運べる新たな送電技術に注目が集まっている。

2025年に運用開始予定の電気運搬船のイメージ
2025年に運用開始予定の電気運搬船のイメージ

 「少なくとも国内100カ所の港に入れそうだ」。9月中旬、東京・六本木の東京ミッドタウン内のオフィス。パワーエックスとその協業企業による開発チーム約20人が集まり、電気運搬船の具体的な運用についてシミュレーションを重ねていた。

船上に蓄電池を載せて電気を運ぶ
船上に蓄電池を載せて電気を運ぶ

 電気運搬船は、電気の燃料ではなく、その名の通り、電気そのものを運ぶ。船に蓄電池を積み、発電地域まで行って電気をためて、需要地に移動して電気を供給する。初号機は2025年に運用を始める予定で、国内の洋上風力発電所から近隣の港に電気を運ぶケースなどを想定している。

 同社を21年に設立したのが社長CEO(最高経営責任者)の伊藤正裕氏(39)。伊藤氏は伊藤ハム創業家出身で、弱冠17歳だった00年に3次元コンテンツ事業の「ヤッパ」を創業した。その後に加わったZOZOでは「ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)」開発も手掛けるなど異才ぶりを発揮してきた。

パワーエックスの伊藤正裕社長CEO(写真=北山 宏一)
パワーエックスの伊藤正裕社長CEO(写真=北山 宏一)

 伊藤氏は人類が直面する気候変動の解決に貢献しようと、同社を創業した。「世界で異常気象が深刻になっている。日本でも夏は猛暑で子供は外で遊ぶことができない。自らが死んだ後も社会に貢献し続けられる事業に人生の数十年を懸ける」と話す。

 日本のかつてのエネルギー政策では電力を安定供給するため、発電設備と送電網を国内でエリアごとに張り巡らせて整備してきた。

電気を蓄えて運ぶ

 しかし世界がカーボンニュートラルに向かう中、新たに二酸化炭素を大量に排出する火力発電所の建設は難しく、原子力発電所の再稼働も遅れている。再生可能エネルギーをためて有効利用する技術があれば、電力需給逼迫の解消、脱炭素社会実現にも役立つことができる。

 伊藤氏のビジネスモデルに、電力や海運、造船、商社など様々な企業が注目した。日本郵船や、関西電力、Jパワーなどが出資し、蓄電池や電気運搬船で協業する見通し。22年8月までに約20社から総額約50億円を調達した。エネルギー資源の少ない日本の弱点を補う蓄電池スタートアップへの期待の大きさがうかがえる。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り2331文字 / 全文3307文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「テックトレンド」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。