日常を支える買い物の場が、大きな転換点を迎えている。無人決済やセンシング技術、AI(人工知能)の活用は経営戦略の根幹を左右する存在になりつつある。技術革新が後押しする小売業の新たな取り組み「リテールテック」の最前線を見ていこう。
埼玉県川口市の「イオンスタイル川口」では2022年2月中旬、AIカメラを使ったレジゴーの専用ゲートを先行導入。スマートフォンでゲートのタブレットに表示される支払い用コードを読み取ると、タブレットの画面が切り替わり指定の番号の精算機での会計を案内する。
支払い用コードを読み取っている間にAIカメラが買い物カゴの中の商品をチェックして、スマホでバーコードを読み取った商品の情報と照合する。同社は従業員によるチェック負担を減らしつつ、来店客のバーコードの読み取り忘れや個数の打ち間違いによる支払金額の誤りや万引きのリスクを減らせるとみる。
AIが最適な割引率を算出
イオンリテールでは、属人化されがちな「現場の英知」を技術で補ったり置き換えたりする取り組みも始めている。22年1月半ばの夕暮れ時、「イオンスタイル川口」。夕食の買い出しとおぼしき客でにぎわう総菜売り場では、店員が総菜に手際よく値引きシールを貼っていた。シールの値引き額は、閉店までに売り切るための最適な価格をAIがはじき出した。
イオンリテールは売価分析システム「AIカカク」を日本IBMと開発し、21年7月末までに運営する約350店のGMS(総合スーパー)ほぼ全店で導入している。
AIカカクの分析に用いるデータは多岐にわたる。気象情報やカレンダー情報、地域のイベント情報に加え、どの店舗で何時何分に売れたかを単品別に記録した販売データ、セール情報を基幹システムなどと連携して収集する。さらに売り場の従業員が、各商品がいくつ売り場に残っているかを入力する。これらを組み合わせ、客数予測と、1000人来店した場合の購入数を示す「PI値」を使って適切な割引率を算出する。
イオンリテールは現在、AIカカクを主に総菜や和菓子、パンなどあまり日持ちしない商品のロス削減に使っている。「総菜は利益率が高い一方で、食品の中でも廃棄や値引きによるロスの割合が高い部門だ」(イオンリテールの山本実執行役員システム企画本部長)。導入以降、総菜部門では値引きや売れ残りによる廃棄で生まれる損失額を1割弱減らし、食品廃棄をおよそ半分にする効果が出ているという。今後もAIカカクの活用を広げていく方針だ。
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