JR東京駅日本橋口に直結するビル「サピアタワー」の1階には、ファミリーマートのオフィス向けブランド店「ファミマ!!」が入居する。しかし、目に映る範囲に店員の姿は見当たらない。それもそのはず、この店舗は2021年春にファミリーマートの肝煎りでオープンした無人決済店舗の1号店なのだ。
「いらっしゃいませ」
入り口に近づくと、自動音声とともに鉄道の自動改札機のようなゲートが開いた。陳列棚の商品を手に取り、精算するまでの流れは通常のコンビニとさほど変わらない。大きく異なるのは決済手段だ。
セルフレジのように商品をバーコードリーダーにかざす必要はなく、無人のレジの前に立つだけで、購入を希望する商品名がディスプレーに並ぶ。同時に自動計算された商品の合計金額も表示される仕組みだ。
支払いは現金のほか、交通系ICカードのSuica(スイカ)などの電子マネーやPayPayなどのスマートフォン決済、クレジットカードといった様々な決済手段から選択できる。アルコール類やたばこなど、年齢確認が必要な商品を購入する場合は、レジに備えたカメラを介して別室に控えた店員が身分証明書を確認。それ以外では一切、店員と接することなく、完全非対面で買い物ができる。
ファミリーマートはこうした無人決済システムを全国6つの店舗に導入済みだ。同技術を開発したTOUCH TO GO(タッチ・トゥ・ゴー、東京・港)と、21年2月に資本業務提携を締結しており、25年2月末までに無人決済店を含む小型のサテライト店を1000店舗まで拡大する計画だ。
ファミリーマートの社長直轄組織となる開発推進室で室長を務める狩野智宏執行役員は「これまで条件的に不利で出店を見送ってきたエリアへの展開も見込める」と説明する。省スペース、ローコストで店舗を運営できるため、建物の空きスペースを有効活用したり、企業が福利厚生の一環として導入できるのだ。
来店客を特定する50の“目”
TOUCH TO GOはJR東日本の子会社とシステムコンサルティングのサインポストが共同出資で設立したベンチャーだ。最先端のカメラやセンサーとAI(人工知能)を組み合わせて、小売店などに設置する無人決済システムを開発している。
同社の阿久津智紀社長は「自分のお母ちゃんでも使えるサービス」を掲げており、来店客は店内に導入された先端技術を意識することなく、店を通り抜けるだけで買い物を済ますことができる。
コンビニの来店客が手に取った商品は、天井に設置した約50個のカメラが“目”となって確認。この目が捉えた映像は“脳”であるAIが認識して、来店客の一人ひとりを個別に見分けて行動を追尾する。
商品棚にも秘密がある。来店客が商品を手に取った瞬間、棚に設置した重量センサーが働く。商品分の重量が軽くなったことで、AIは「商品が棚から離れた」と認識する。そして、その商品を持つ来店客をカメラで確認する仕組みだ。
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