建設現場の生産性を2016年から10年間で2割向上させる目標を国土交通省が掲げてから7年。ICT(情報通信技術)を生かした施工の内製化など、本気で取り組む中小企業に密着。会社の規模を問わず、誰でも「やればできる」生産性向上策の秘訣を追った。

 建設現場の生産性向上は大手が実践していても、中小はまだまだ遅れている──。そんな見立てを覆す建設会社が現れている。土木部門全員にICT(情報通信技術)を生かした施工を学ばせた森下建設(島根県江津市)だ。経営コンサルティング会社と二人三脚でノウハウを身につけた。

 江津市を流れる八戸川沿いで県道改良工事が続いている。現在3期目に入った。延長約50m、高さ10m前後の斜面を掘削した後にモルタルを吹き付けて、プレキャストコンクリート(PCa)擁壁(壁状の構造物)と軽量盛り土で道路を造る。現場を率いるのは社員数約50人の森下建設だ。同社はこの現場にICTを活用している。

工事を終えた1期と2期の工区が並ぶ
工事を終えた1期と2期の工区が並ぶ

 自動追尾型のトータルステーションで掘削面の形状を管理。3次元の設計データと照らし合わせて、バックホー(ショベルをオペレーター側向きに取り付けた建機)で掘削すべき場所や深さを判断している。施工時に基準面となる位置を板材で示す「丁張り」はほとんど出てこない。「測量作業で掘削した地山に作業員が近づく回数が減った。多いときは3人以上必要だったが、今は1人で済む」。主任技術者を務める水野薫土木課長はメリットをこう説明する。

4つの工種で管理基準を提案

島根県が発注した道路改良工事現場。取材時は3期目の工区でモルタルを吹き付けた斜面にアンカーを打設する準備をしていた。
島根県が発注した道路改良工事現場。取材時は3期目の工区でモルタルを吹き付けた斜面にアンカーを打設する準備をしていた。
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 同社は隣接する1、2期目の工区も手掛けた。1期目では従来通り丁張りを使いながら施工。2期目から3次元測量に乗り出した。最適な施工手順を追求し、3次元レーザースキャナーやトータルステーションで取得したデータを使った出来形(完成部分)などの管理手法を考案した。モルタルの吹き付け厚の出来形や、斜面に打設したアンカーの出来形、PCaパネルの出来形、軽量盛り土の出来高(出来形の代金)の4工種をICTで管理する。