本格的に普及し始めた電気自動車(EV)を「走る蓄電池」として活用する取り組みが広がり始めた。国内外で、EVと施設間で電力を融通するエネルギーマネジメントの実証実験が進んでいる。発電量が不安定な再生可能エネルギーを効率的に活用するため、AI(人工知能)が司令塔になる。

福島県浪江町で電気自動車(EV)を再生可能エネルギーの「調整役」に活用する取り組みが始まった。商業施設「道の駅なみえ」の駐車場に、町役場の公用車としてEV5台を導入。それぞれ最適なタイミングで充電や放電をして、施設とEVの間で再エネ由来の電力を融通し合う。再エネの余剰電力をEVにため、足りない時に放電することで、再エネの利用率を高めることが可能だ。
日産自動車が1月から始めたEVを活用したエネルギーマネジメントの実証だ。「リーフ」を蓄電池として活用する取り組みの一環で、単なる非常用電源にとどまらない高度な自律制御の実現を狙う。
実証ではまず、5台のEVの電力をすべて再エネ100%で賄う仕組みをつくった。道の駅では、すでに太陽光と風力、水素による再エネ発電が稼働中で、通常は正午ごろに発電量のピークを迎えるが、天候や時間帯によって発電量は大きく異なる。過不足が生じやすい再エネを最大限に利用できないのが課題だった。
AIが複数のEVを制御
そこで、EVバッテリーの充電率や使用状況、再エネ発電量などを考慮しながら、複数台の充電量が発電量を超えないよう計算。それぞれ最適な時間帯と充電量になるようにする。例えば、3台充電中に4台目が駐車場に戻ってきた際に、全体の充電ペースを落とすといった具合だ。
充放電器に指示を与えるのがAI(人工知能)だ。これまで日産が研究所で開発してきた充放電システムで、浪江町が初めての社会実装の場となった。ダイヘンと共同開発した充電器では、EV1台ずつの動きではなく、全体最適を目指す。
ここに、日産ならではの精度も加えた。同社は2010年に世界に先駆けて量産EV「リーフ」を発売した経緯がある。10年超にわたってEVの使用データを取得してきた強みを生かし、走行量に応じたバッテリーの減り具合や、実際の走行に必要なバッテリー量、通勤や商用によって異なる使い方、といった経験に基づくデータも加味した。
浪江町の実証では、EVの充電に使う再エネ由来の電力の比率が従来の61%から100%に上昇し、電気代を月4万円削減する効果があったという。EVのユーザー向けにアプリを用意し、利用前に車両の確認や必要な充電量を設定できるようにした。
Powered by リゾーム?