コンピューターの性能向上を背景に、ものづくりの現場でシミュレーションがより一層身近になってきた。実験を代替してコストを削減するだけではなく、製品の付加価値を高める手段として存在感が高まっている。複雑化する製品開発の最前線を、トポロジー最適化を導入する2社の事例から追った。

 製造業にとって、シミュレーションという言葉は、それほど目新しいものではない。この20年ほどで、シミュレーションは研究機関や大企業だけでなく、中小企業にも広く扱いやすいツールとなった。

難度の高い課題に挑戦

 背景にあるのは、絶えず進化するコンピューターの処理能力だ。規模にもよるが、応力解析や流体解析といったツールを試すのであれば、必ずしも大きなワークステーションを用意する必要はなくなっている。クラウドから利用できるツールも登場している。

 設計の初期段階からシミュレーションの力を気軽に借りられれば、これまではできなかった検討が可能になったり、思いもよらないアイデアが得られたり、工数を大幅に短縮したりと、新たな付加価値を製品やサービスに盛り込める。従来のものづくりの「限界」を突破するためのツールとなり得る。

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 シミュレーションに対するハードルが下がり手軽になったことで、より難度の高いシミュレーション課題に挑戦する企業は着実に増えている。軸受け大手の日本精工(NSK)は、電気自動車(EV)など電動車の駆動用モーターの高速回転化に寄与する玉軸受けの設計に、トポロジー最適化(位相最適化)を適用した。

 トポロジー最適化は、シミュレーション技術の一つで、部品の中で強度への寄与率が低い部分は不要であると見なし、そこを少しずつ除去する計算を繰り返す。初期形状を与えてこれを変形していき、必要最小限の材料を残した形にする。人間の設計者には思いもよらない複雑な形状を、ソフトウエアによって導き出し、設計形状を出せるメリットがある。NSKはこの手法を2021年3月に発表したdmn(ピッチ円直径dm×最高回転数n)で180万を誇る、軸受けの保持器設計に適用した。

 玉軸受けを高速で回転させると、玉を保持する冠型の保持器が遠心力で変形し、外輪やシールなどと接触して発熱する。この課題を解決するのにトポロジー最適化を活用した。同社によると、軸受けの設計にトポロジー最適化技術を適用するのは「世界で初めて」(同社)という。

 今回発表した高速回転軸受けは第3世代に当たり、第2世代モデルの保持器に比べて変形量は32%削減。同時に44%軽量化した。また、トポロジー最適化を適用して設計期間を抑えており、前モデルを発表した20年3月から1年で新モデルの開発にこぎ着けた。

 軸受けを高速で回転させると遠心力で、保持器の円環部から円環の中心軸方向に伸びた爪が花びら状に開いてしまう。すると、花びら状に変形した保持器の一部が外輪やシールに接触して異常発熱し、焼き付く危険性がある。同社技術開発本部コア技術研究開発センターデジタルツイン推進室グループマネジャーの千布剛敏氏は、「高速化に耐えるためのボトルネックの一つは、保持器だった」と話す。

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