安全だと思われてきた通信手段が、量子時代の到来によって信頼性を失うかもしれない。量子コンピューターが実用化されれば、これまで主流だった暗号を容易に破れるアルゴリズムがある。対抗策の一つである量子暗号通信には各国が注目。ビジネス上の取引にも活用が期待されている。

 「量子技術は経済安全保障上でも極めて重要な技術」。岸田文雄政権が4月に決定した「量子未来社会ビジョン」では、こう明記した。特に通信の安全性を確保するためのインフラが「量子暗号通信」だ。民間についても「医療や金融の情報を扱う上で、セキュアな通信システム構築を重視している」(総務省国際戦略局の小川裕之研究推進室長)。

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 対応を急ぐ必要があるのは、量子を巡る国際競争が激化し、国や企業の機密情報が危機にさらされるためだ。米グーグルが2019年、従来の計算機では困難な問題を量子コンピューターで解く「量子超越」の実験に成功。中国科学技術大学の研究チームも20年、量子超越を達成した。

 米国ではバイデン大統領が5月、新たな暗号技術を確立すべく大統領令に署名した。量子コンピューターは、これまでの暗号を迅速に破れる潜在力があり、防御が必要だ。

解かれる暗号

 従来の暗号の課題はどこにあるのか。インターネット上で商品を買う際のクレジットカード情報送信などの多くで使われているのが、1977年に登場した「RSA暗号」というアルゴリズムだ。暗号を解く「秘密鍵」は受信者だけが知っており、送信者が文章を暗号化する鍵は「公開鍵」と呼ぶ。素数のペアを秘密鍵に利用しており、それらの素数を掛けた数を公開鍵に活用している。

 もし公開鍵が55であれば、秘密鍵は5と11だとすぐ逆算できる。ただ、巨大な数なら素因数分解は困難という性質がある。数百桁の整数なら、元の素数を見つける計算にはスーパーコンピューターを用いても膨大な年数がかかる。