法・制度改正によって中小企業にデジタルトランスフォーメーション(DX)の圧力が強まっている。ITサービス各社は、DX初心者の中小企業にも使いやすいサービスの展開に取り組む。サービス無料化から地域金融機関の巻き込みまで、各社の創意工夫が試される。
2021年後半、名刺管理アプリを手掛けるサンサン(Sansan、東京・渋谷)の新事業に問い合わせが相次いだ。20年に立ち上げた新事業のサービス名は「ビルワン(Bill One)」。請求書をクラウドで一元管理できるサービスだ。
問い合わせが集まった背景には、法改正があった。もともと22年1月に予定されていた電子帳簿保存法(電帳法)の改正だ。電子的に受け取った請求書などは電子的に保存しなければ税務書類として認められなくなるというもので、例えばアマゾン・ドット・コムの画面をプリントアウトした領収書は原則認められない。
アナログの紙からデジタルへの移行が一筋縄ではいかないのは、請求書も同じだ。フォーマットは企業によって大きく異なり、1枚で完結するとは限らない。複数の税率が混在する消費税の記載方法にもルールはない。
ビルワンでは名刺のデータ化のノウハウを活用しているが、「請求書の読み取りは名刺よりも難しい」と大西勝也ビルワン事業部長は語る。
義務化導入は2年先送り
その一方で、請求書は金銭の動きに直接関わるので精度は極限まで高める必要がある。ビルワンは名刺アプリで培ってきたAI(人工知能)や人の確認を組み合わせたデータ化技術で難度の高いサービスを高精度で実現させた。
現在は請求書の受領者向けにサービスを提供しているが、将来的には請求書の発行者事業者向けのサービス展開も視野に入れる。名刺と同様に企業と企業のつながりをデータ化し、機密情報に配慮した上でデータ活用を目指す。
システムなしで電子保存の義務化に対応するのは容易ではない。そのため、サンサンをはじめ請求書のデジタルトランスフォーメーション(DX)サービスを展開する各社には駆け込み需要が相次いだ。それでも中小企業の対応はあまり進まず、政府は義務化に2年間の猶予をもうけることを余儀なくされた。
しかし、義務化は延期されただけで中止になったわけではない。さらにその義務化の前に、インボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入される。
同制度により、登録番号や消費税率を明記した「適格請求書」を利用しなければ買い手の仕入税額控除が認められなくなるが、システム導入なしでインボイス制度に対応しようとすると業務が煩雑になってしまう。
Powered by リゾーム?