全国の団地の約半数が築40年を超え、老朽化が深刻さを増している。これまで長寿命化の技術開発などによって、団地再生の促進策が打たれてきた。郊外居住のイメージが変わるコロナ禍において、大企業も次々と団地再生ビジネスに参入してきた。
スマートモビリティーやIoT(モノのインターネット)など最新技術の実験場として団地が使われる場面が増えている。全国には築40年を超える団地が約600カ所近く残存しており、その活用いかんで街の未来も左右される。
桜が咲くうららかな春の日に、住民を乗せた小型電動カートが団地内をゆっくりと走る。乗客が運転手に意思表示すれば、停留所以外でも自由な場所で乗降できるモビリティーサービスだ。
国土交通省国土技術政策総合研究所(国総研)は2021年3~4月、埼玉県日高市にある「こま武蔵台団地」でその実証実験を行った。人口約4700人、約2200世帯が住まう大規模団地だ。この団地を対象に選んだのは、高齢化が進み、かつ起伏がある地形で、住民などが移動に困難を伴う状況にあったからだ。

乗車した住民にアンケートしたところ、月に500~1000円程度であれば利用料を支払ってもいいという回答が多く、実験は好評に終わった。国総研建築研究部長の長谷川洋氏は、「実験期間は約3週間と短かったので、21年度内に、冬の寒い時期で長期間運用した場合のニーズを再検証したい」と意気込む。
この他、東京都住宅供給公社は群馬大学と共同で、自動運転車両を使った実証実験を21年10月から町田木曽住宅地域で行うと発表。移動の難しさが高齢者の外出を控えさせる要因になっているため、「距離のバリア」の解消を目指すとしている。
「再生の手引き」を国が作成
横浜市も、団地などを実証フィールドとして企業に提供し、次世代の製品やサービスの創出を目指す「I・TOP横浜ラボ」と呼ぶプロジェクトを推進している。今や団地は先端技術の実験場として大人気なのだ。
まとまった人口や世帯数を対象に実験できることは、その要因の一つだろう。かたや団地は住民の高齢化が顕著な上、インフラは整備されているものの建物や設備は老朽化。いわば“過酷な環境”に置かれているケースも少なくない。未来の日本社会が直面する様々な課題を凝縮したような場だからこそ、団地は実験場として有用といえる。
国は合意形成が困難だった団地の建て替えを促すために都市再生特別措置法を16年に改正。20年6月には、要除却認定の対象拡大や、敷地分割制度を新設するために改正マンション建て替え円滑化法を成立させた。さらに改正地域再生法により、市区町村が「地域住宅団地再生事業計画」を作成すれば、団地再生に必要な手続きを簡略化できるようになった。
法改正などを踏まえて国交省は「住宅団地再生の手引き」を作成。21年6月、自治体や民間企業、都市再生機構(UR都市機構)などが参加する「住宅団地再生」連絡会議の下、ワーキングを設置すると発表した。
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