アスリートの世界で注目されているのが「脳」の働きだ。瞬時の状況判断、強靭(きょうじん)なメンタルなどはいかに生み出されるのか。テクノロジーの進化が、この未解明領域の謎を明らかにしつつある。

 トップアスリートの世界ではトラッキング技術の普及で、既に膨大なデータが蓄積されている。しかし、アスリートの脳は未解明な部分が多く、世界中で多くの企業、研究機関が「内面の可視化」に挑んでいる。

 NTTコミュニケーション科学基礎研究所の「スポーツ脳科学プロジェクト」(以下SBS)が目指すのが、プレー中の選手の脳活動を解析することでパフォーマンスとの関係性を明らかにし、「勝てる脳」を作ることだ。柏野多様脳特別研究室室長の柏野牧夫氏は「直接の脳からの信号でなく、計測に信頼性がある生体データや身体動作を解析することで、背後にある脳機能を『ハッキング』するアプローチが主眼。プレー中の様々なデータが集まり、脳機能を解明しつつある」と話す。

プロもボールから目が離れる

 「ボールから絶対目を離すな!」。野球でコーチが打者を指導する際に、よく使うセリフだ。しかし、トップレベルの投手はボールが手を離れてからホームベースを通過するまでの時間は0.5秒以下。この時間に軌道を見極めてスイングするかを決め、それから動くのでは間に合わない。

 打者はどのような脳内処理で高速のボールを打つのか。SBSはプロ野球選手(1軍野手3人、2軍野手3人)を対象に投手との対戦形式で視線の挙動を分析。元プロ野球の投手はあらかじめ球種を教えられる速球、球種を教えられない速球、カーブの3種をランダムに投げる。打者は球種によらずストライクなら強打し、ボールなら見送る。その際の打者の眼球運動を小型の高速視線追跡装置(アイトラッカー)で、頭部運動とバットの軌跡を光学式モーションキャプチャーシステムで計測した。

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