身体機能だけでなく認知機能も補完・向上させる人間拡張技術の利用領域が広がっている。遠隔操作により障害者の活動領域が広がり、アンケートでクローンの活用もできるようになった。コロナ禍で誰もが自由に移動できなくなったことも背景に、市場は拡大しそうだ。

まるで恐竜の尻尾が人間に付いたかのようなグロテスクな外観に思わず目が留まる。男性の腰から伸びた「尻尾」は、前屈すると後ろに跳ね、体を右に傾けると左方向へと動いた。体のバランスを失いそうになると、自動的にサポートしてくれる。これを付ければ、動物にはあって人間にはない感覚を疑似体験できる。
尻尾は、慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科(横浜市)で南澤孝太教授が主宰するEmbodied Media(身体性メディア)研究室が開発した。「もし人間が尻尾を取り戻したらどうなるのか。コンセプチュアルなものとして作製した」と南澤氏は話す。
体重数十kgの人間の体のバランスを取る必要があるため、尻尾は全長70~80cm、重量3~4kgと一定の重さにしている。体の一部のような滑らかな動きにしているのは、「尻尾」の内部に入っている空気圧の人工筋肉だ。動物の尻尾を参考に、体の動きとは反対方向に「尻尾」が動くことで重心を戻すようにプログラミングされている。
市場規模は21兆円に
仮想現実(VR)技術と組み合わせ、実際に「尻尾」を装着しながら、画面に映し出された山の中の風景を動物のように身軽に駆ける体験もできる。テクノロジーの力を使って、現にある肉体を超えて、どんな機能を追加できるか。南澤氏はこの尻尾を、人間の身体や認知の能力を補完したり向上させたりする「人間拡張」の可能性を考えるきっかけにしたいと考える。
テクノロジーの発展に伴い、人間拡張に関する多様な技術が生まれている。その種類は大きく2つ。アシストスーツなどを用いて人間の運動能力を強化するのが身体拡張で、Embodied Media研究室が開発した尻尾もこの部類に入る。一方、視覚や聴覚といった感覚を遠方にいながら感じられるのが認知拡張だ。ロボットが自分の分身となって、代わりに他人とコミュニケーションを取るのはこれに当てはまる。
米調査会社によると、2019年に約7兆円だった人間拡張の世界の市場規模は24年には3倍の約21兆円に成長する見通しだ。その中でも、新たな技術の恩恵により日常生活の可能性が広がるのが障害者だ。
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