次世代の計算機、ゲート型量子コンピューターは、複数台を接続すると演算能力は指数関数的に上がる。ネットワーク基盤「量子インターネット」は、現行インターネットと異なるプロトコルと中継器が必要になる。有望視されるのは、量子メモリーとしての機能を持つダイヤモンドだ。

 「0」でもあり「1」でもある量子ビットを送受信する情報通信基盤が「量子インターネット」だ。

 内閣府が2020年1月に公表した「量子技術イノベーション戦略最終報告」によると、部分的な実用化時期は早くても30年ごろ。現段階ではシステムに必要とされる個々の要素技術を研究開発している段階だ。

従来の中継器が使えない

 次世代の計算機で量子デバイスの一つであるゲート型量子コンピューターは、複数台を接続して同時に計算することで、演算速度を向上できる。現在のスーパーコンピューターにもこのような並列処理機能が存在するが、「ゲート型量子コンピューターの場合、重ね合わせの原理によって指数関数的に計算能力を上げられる」(量子インターネットタスクフォースの代表でメルカリR4Dシニアリサーチャーの永山翔太氏)という点が大きな強みだ。

 量子インターネットは、地理的に分散配置されたゲート型量子コンピューター同士を結ぶことで、広域分散処理を可能にする。量子状態を保ったまま、暗号鍵を共有することによって、「安全に暗号通信できるようになる点も量子インターネットの魅力の一つ」と永山氏は続ける。

 ただし、現行インターネットが将来、全面的に量子インターネットへ刷新することは考えにくい。これはゲート型量子コンピューターが実用化しても、古典的なコンピューターは依然として必要となるからだ。現行インターネットと量子インターネット専用の情報通信基盤を、今後併用していく未来が考えられる。

 量子インターネットの実現に向けて最大の課題となるのが通信経路における中継器である。

 量子インターネットも現行のインターネットの基幹網と同様、光子を情報のメディアとして使う。一方で、量子インターネットでは、光子を「0」と「1」のデジタル信号として利用するのではなく、量子状態(主として偏光状態)そのものを情報として扱う。この違いにより、デジタル信号で使われてきた従来型の中継器が適用できなくなってしまう。

 さらに詳しく説明すると──現行インターネットにおける中継器(光増幅器)の役割はこうだ。送信者が送る大量の光子は光ファイバーに吸収されて数が減り、受信者へ届くまでに信号が減衰する。ここで光増幅器は、適宜光子の数を増やすことで信号強度を増幅する。そうすることで、長距離通信でも信号強度は一定に保たれ、必要な情報を受信者に届けられる。

 しかしながら、量子インターネットではこうした中継方式を使えない。未知の量子状態を複製できないという「量子複製不可能定理」によって、単純に光増幅器で光子の数を増やすだけでは、量子インターネットで扱う量子状態を引き継げないからだ。

 量子インターネットを実現するためには、現行のインターネットとはまったく異なる、量子力学の法則にのっとった中継方式や物理的原理のアイデアが必要となる。

量子インターネット最大の課題は 量子中継器
<span class="fontSizeL">量子インターネット最大の課題は 量子中継器</span>
現行インターネットの中継方式は、光ファイバーの管路を通過する過程で、多数の光子が光ファイバーに吸収され、信号強度が低下する。現行のインターネットでは光増幅器を管路に置くことで適宜光子の数を増やし、信号強度を維持している。
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<span class="fontBold">一方、量子インターネットでは、そのような中継方式が使えない。</span>
一方、量子インターネットでは、そのような中継方式が使えない。
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<span class="fontBold">量子インターネットは、光子の量子状態そのものを送る。量子複製不可能定理が示す通り、未知の量子状態を複製できないからだ</span>
量子インターネットは、光子の量子状態そのものを送る。量子複製不可能定理が示す通り、未知の量子状態を複製できないからだ
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続きを読む 2/3 長距離間で量子もつれ生成

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