企業が従業員に提供する福利厚生が、デジタルの力で進化を続けている。健康管理や自己啓発、食事支援など多様なメニューを用意し、スマホアプリなどで手軽に提供するのがポイントだ。ヘルスケアや決済とも結びつく成長市場となり得るだけに、ビジネスチャンスとみて多くの企業がひしめく。
5000歩を歩くと10ポイント、摂取カロリーを基準値内に収められたら5ポイント、さらに魚を食べたら3ポイント──。健康管理アプリを開発するスタートアップ企業、FiNCテクノロジーズ(東京・千代田)が提供する健康維持プログラムの一例だ。
運動や生活習慣の改善をミッション形式で提供する。ポイント付与やミッション終了時の達成感といった金銭的・精神的なインセンティブを健康維持の動機につなげてもらうコンセプトだ。アプリは既に国内で1000万ダウンロードを超え、個人レベルでは普及が着実に進みつつある。
この流れは企業にも及ぶ。同社が手掛ける企業向けサービス「FiNC for BUSINESS」は320社以上で導入済み。在宅勤務など働き方改革の浸透に伴い、「社員の健康を後押しする労働環境の整備が企業の重要課題になる」(長田直記執行役員)。これまでのように、何かあった後に産業医に診てもらうのではなく、日常的に健康状態をフォローできる体制作りともいえる。
利用者の24%がBMI低下
ここで力を発揮するのがIT(情報技術)だ。1人1台レベルに普及したスマホを使うことで、健康状態のフォローに加え、病気の予防や健康維持・増進を後押しできる。
実際、ファイザー日本法人の社員にFiNCのアプリやウエアラブルデバイスを使ってもらい実施した2020年8~12月の実証実験では、アプリが体格指数(BMI)の維持・改善に役立つことが分かったという。コロナ下の在宅勤務で通勤時間がほぼなくなり運動不足に陥りやすい環境だったにもかかわらず、歩数はコロナ前と比べても同程度だった。
また参加者の72%がBMIを維持し、24%が低下した。BMIの低下についてファイザーは「体組成計の使用頻度、食事の記録回数、脂肪燃焼運動時間の要素が寄与したことが示唆された」という。健康意識の高い従業員が実験に参加した可能性は残るものの、アプリやウエアラブル端末の利用が従業員の意識付けにつながった面はある。「スマホの画面をタップするだけ」にとどまらない可能性を秘めているといえそうだ。
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